「江戸の仕事図鑑 上巻 食と住まいの仕事」飯田泰子著
近い将来、多くの仕事がAIに取って代わられ、労働人口の約半数が仕事を失うといわれる昨今。戦々恐々としている方も多いと思うが、本書を一読すれば、時代の変化によって、これまでの仕事が消滅するのはなにも今に始まったことではないことがよく分かるだろう。
本書は、江戸時代の人々の「生業」を紹介する図鑑。上巻の本書では人生に必須の食と住に関わる約250種余りの職種を紹介する(下巻は「遊びと装いの仕事」編)。
住まいの章では、大工や左官など、現代でもおなじみの職人たちも多数登場するが、一方で、奥山から普請用の木材を切り出す「杣人」や、切り出された木材を筏に組み川を下る「筏師」をはじめ、普請場で大木や大石を引き動かす「梃者」、台所の竈をつくる「竈師」、その竈の神さまに供える荒神松を売り歩く「荒神松売り」など。今ではすっかり消えてしまった職人や商売人たちが紹介され、彼らの仕事ぶりから当時の暮らしが透けて見える。
食に関わる仕事を紹介する「味わい」の章では、低いところを流れる用水から田んぼへ水を引く道具「龍骨車」を作る職人「龍骨車師」など、初めてその名を聞く職業もあるが、餅屋や素麺師、麹屋、玉子売りなど、その規模や方法は違えど、多くの職業が現代にも残っていることが分かる。食に関する仕事は、意外と普遍的なのかもしれない。
登場する「仕事人」たちの図版は、すべて元禄3(1690)年に刊行された「人倫訓蒙図彙」や、幕末の風俗誌「守貞謾稿」、各種の「職人尽歌合」の挿絵として描かれたもの。
他にも医者と薬屋や、神仏の世界の仕事まで網羅し、江戸のプロフェッショナルたちの仕事ぶりを伝える。
(芙蓉書房出版 2500円+税)