「ポスター芸術の歴史」 デイヴィッド・ライマー著 海野弘解説 井上廣美訳

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 時代とともに新たなメディアが次々と登場するが、アナログとも思えるポスターは相変わらず街の一風景として健在だ。商品や催し物を紹介するという本来の目的を果たしながらも、芸術としての価値を万人が認めているからであろう。

 本書は、1880年代末期の「ベル・エポック」から、1920年代の「黄金時代」を経て、「アート・ポスター(芸術的ポスター)」が芸術表現のひとつとして発展した30年代、40年代までの代表的なポスターを紹介する豪華アートブック。

 ポスターの発展には、印刷技術の革新が不可欠。1880年、ポスターの印刷を担っていたリトグラフ印刷に革命が起きる。パリのリトグラフ職人で、デザイナーでもあったジュール・シュレが、それまで複雑で時間と労力がかかっていたカラーリトグラフの作業工程の簡略化に成功。当時の広告を一変させ「ポスターの父」と呼ばれるシュレの作品からまずは見ていく。

 赤・黄・青の3つの基本色を重ね、さまざまな色調と明暗を生み出すことに成功したシュレがポスターに描いたロココ風の快活なパリジェンヌのシルエットが当時の若い女性の間で流行し、そうしたスタイルの女性は「シュレット」と呼ばれるようになったという。また、彼のポスターはこの時代からコマーシャルアートを超越して、コレクターズアイテムとなり画家のドガやモネらも彼の作品を収集していたそうだ。

 1890年代になると政治や経済とともに、文化にも新しいトレンドが出現する。アールヌーボーだ。そのアールヌーボーの美意識を大衆に広めたのがアルフォンス・ミュシャだ。

 彼が名声を得るきっかけとなった伝説的女優サラ・ベルナールを描いた独創的なポスターをはじめ、後に「アールヌーボーの巨匠」と呼ばれるようになったミュシャの作品の数々を堪能。

 ミュシャと同時期、広告を美術に変えたもうひとりの天才がパリにいた。トゥールーズ・ロートレックだ。

 ムーランルージュのために制作したポスターで一躍脚光を浴びた彼のポスターは、シルエットを巧みに配したデザインが斬新だったという。

 よく知るこうしたアーティストの作品をはじめ、1900年代初めのオーストリアで芸術家とデザイナーが手を組み、進歩的で新しい芸術観を生み出した「ウィーン分離派」のコロマン・モーザー、バウハウス出身のグラフィックアーティスト、ヘルベルト・バイヤー、1930年代にキュービスムや抽象画、未来派などの前衛的スタイルを広めたロンドン交通局のポスターを制作したクリフォード・エリス(写真④)など、各時代を代表する26人のアーティストの100枚以上のポスターを収録。

 さまざまな芸術運動と印刷技術の発展との関係を解説しながら紹介する。

(原書房 5800円+税)

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