「世界の美しくてミステリアスな場所」 パイ インターナショナル編著
世界には、その場に立つだけで負のオーラを感じるスポットがある。
「見るからに不思議だったり、不気味だったり、一見すると美しいけれど、その場所の成り立ちや、エピソード、噂を聞くとゾッとして恐ろしくなったり、悲しくなったりする」――そんなミステリアスな場所ばかりを集めたカラーガイドブック。
パステルカラーの壁の部屋がいくつも連なり、真ん中の部屋では外れたドアが中途半端に空間にとどまっている表紙の写真は、かつてダイヤモンドの採掘で沸いたナミビアのコールマンスコップという町の廃虚の一部。よく見ると、部屋は窓から吹き込んだ砂で埋もれかかっている。他にも、町の病院や学校、ダンスホールなどドイツ様式(当時はドイツ領だったため)の建物たちが今まさにナミブ砂漠にのみ込まれようとしている。
ウクライナのプリピャチという町には、一度も開園することなく廃虚となってしまった遊園地がある。オープン5日前の1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原発事故によって住人がすべて避難してしまったからだ。
以来35年間、観覧車などのアトラクションが一度も客を乗せることなく朽ち果てようとしている。
これらは「遺棄された場所」という章で紹介されるスポット。
他にも、1439年以来約350年間、先祖への敬意から古い墓を改葬することなく、その上に土をかぶせて新たな墓を建て続け、12層にもなっているチェコの「プラハの旧ユダヤ人墓地」や、生前の職業や生活を伝える服を着たままの8000体ものミイラがまるで展示されているかのように並ぶイタリア・シチリア島にある「カプチン・フランシスコ修道会の地下納骨堂(カタコンベ)」といった「死者を祀る鎮魂の場所」の章など、5つのテーマで世界各地の66スポットを写真と解説で案内してくれる。
どれもがガイドブックでは取り上げられないようないわくつきの場所ばかりで、見ているうちにその怪しい魅力のとりこになってくる。
「怪異の噂のある場所」の章では、18世紀にペスト患者の隔離収容施設に使われ10万とも16万ともいわれる患者が命を落とし、「世界一の心霊スポット」として名をはせるイタリア・ベネチアの無人島「ポヴェリア島」や、ライフル銃で有名なウィンチェスター社2代目の未亡人が、同社の銃で命を落とした人々の呪いから逃れるために増築を繰り返したアメリカの奇妙な屋敷「ウィンチェスター・ミステリーハウス」などの背筋がうすら寒くなるような場所が並ぶ。
そして紀元前5000~2000年ごろに建てられた2792個もの巨石が全長3キロにわたって並べられたフランス・ブルターニュ地方の「カルナックの列石群」といった「謎多き遺跡が残る場所」から「謎と奇跡が伝わる場所」まで。
写真を眺めていると、「そこに写っていない何か」のつぶやきが聞こえてきそうだ。
(パイ インターナショナル 1850円+税)