「OL捜査網」吉村達也著
会社にはさまざまな部署があるが、そのうち総務部は、会社内のすべての事務業務をつかさどる部門だ。つまり、人事部、経理部、法務部、広報部などの間接部門の中枢であり、また現場と経営陣をつなぐ懸け橋的な役割も果たしている。他の部署と比べると、専門性に欠けるところがあるので揶揄的に「何でも屋」といわれたりもするが、逆にいえば、他の部署には伝わってこない雑多な情報が集積する場所でもある。本書はそんな総務部の特性がカギとなるミステリー作品だ。
【あらすじ】横浜に本社を構えるヨコハマ自動車。4月のある日曜日、入社2年目の海外事業部の深瀬美帆は同期の秘書室勤務の叶万梨子と横浜ベイブリッジでダブルデートを楽しんでいた。美帆の恋人、花井光司も万梨子の恋人、山本俊也もどちらも会社の同僚だ。
すると彼女らの目の前でひとりの女性がベイブリッジから投身自殺を遂げた。それを見た山本は女性が落ちた海めがけて飛び込む。知っている女性かと聞かれても山本は何も答えない。後に、くだんの女性は山本の上司で総務部長の菊地の一人娘、朋子と判明する。
実は前日の土曜日、同じ会社の営業部長の妻が自宅で殺害されていた。以後、毎週土曜日になるとヨコハマ自動車の社員が連続して殺害され、「土曜日の悪魔」として恐れられた。会社の人間が亡くなれば葬儀が行われるが、それを取り仕切るのは総務部だ。しかし、なぜか山本は姿を現さない。
警察から捜査の協力を依頼された美帆と万梨子は山本に疑いの目を向けるが……。
【読みどころ】事件の背後にある会社における人間関係の複雑さや会社人間の悲哀が巧みに描き込まれているが、独特の感性で事件の真相に迫る美帆と万梨子の活躍も読みどころ。<石>
(集英社 720円+税)