「竹中平蔵 市場と権力」佐々木実著/講談社文庫
先日、「菅内閣は竹中内閣」と題して講演した。小泉(純一郎)内閣で、総務大臣となった竹中平蔵に副大臣として仕えて以来、菅義偉のアタマは竹中に占領されている。
その竹中を丸裸にしたこの本が、文庫化された。この中にはこんな逸話が出てくる。
小渕(恵三)内閣で経済企画庁長官となった堺屋太一に推されて、竹中は「経済戦略会議」の委員に就任した。あるとき、その事務局長の三宅純一に竹中が声をかける。
「三宅さん、官房機密費を使ってアメリカに出張したいんです」
竹中は「300万円」という金額まで口にした。三宅は驚いて、こう返した。
「竹中先生、官房機密費がどんなものかわかってそんなことをいっているんですか。個人的にアメリカに行くというのなら止めませんけど、公務で行くから官房機密費を使わせてくれなんていう話を官邸につなぐことはできませんよ。官邸だってそんな話は認めないと思います」
しかし、その後、菅が官房長官になって、竹中のこの種の話はほとんど通ったのではないか。菅が首相になったから、あるいは、その額もどんどん膨らむかもしれない。
竹中のいわゆる新自由主義は会社の活動についての規制をはずして、働く者(社員)を貧しくする“社富員貧”だと私は批判してきたが、その結果、会社の内部留保は450兆円にもなってしまった。竹中が会長をしているパソナをとりわけ儲けさせる派遣労働についての規制を緩和した結果である。
菅は維新の橋下徹とも極めて親しい。
竹中は小泉と橋下を重ねて、どちらも原理原則を貫いて、自分の言葉で国民に語りかけていると橋下を持ち上げ、橋下は竹中を自分の基本的な価値観、哲学は竹中の考え方だとまで言っている。おぞましいエールの交換である。
菅、竹中、そして橋下という我利我利亡者の3悪人によって、この国はますます陰湿な統制国家になっていくのだろう。そして、弱肉強食のジャングルの自由が強調され、住みにくい国になってしまう。
私も2010年に「竹中平蔵こそ証人喚問を」を出し、国会で竹中の責任を追及しろと指摘した。その増補新版を「竹中平蔵への退場勧告(レッドカード)」と題して今月下旬に旬報社から出す。併せて読んで竹中糾弾の火の手をあげてほしい。 ★★★(選者・佐高信)