「ストーンサークルの殺人」M・W・クレイヴン著、東野さやか訳
ブラッドショーがホテルのバーで酔っぱらいに絡まれるシーンがある。ブラッドショーは窓のそばの席に座り、ノートPCでゲームをしていた。そこに男たちが絡んできて、1人が彼女の口にビールの瓶を押しつける。中身が彼女のTシャツにこぼれると男たちは笑いだす。ポーを呼びにきたバーテンダーが「警察を呼びましょうか」と言うが、「おれにまかせてくれ」とポーは彼らに近寄っていく。このあとがいい。
「ブラッドショーは見た目こそ小柄で弱々しく見えるが――鋼鉄の心の持ち主だ。泣いてもいないし、大声で助けを呼んでもいない。男3人に敢然と立ち向かっている」
ブラッドショーは16歳でオックスフォード大学の学位を取ったほどの天才的頭脳の持ち主だが、一般常識に疎く、極端な人見知り。国家犯罪対策庁のポーと一緒に仕事をするようになって、少しずつ外部と接触を持つようになったという経緯がある。見た目は弱々しいが、鋼鉄の心の持ち主なのだ。そういうヒロインがここにいる。
次々に焼死体が発見される事件を、刑事ポーと分析官ブラッドショーがコンビを組んで解決していくシリーズの第1作だが、この異色のヒロインの魅力があふれているのがいい。さらに、構成が群を抜いているのでどんどん物語に引き込まれていく。まことに楽しみなシリーズの開幕といっていい。
2019年の英国推理作家協会賞最優秀長編賞の受賞作だ。
(早川書房 1180円+税)