「夜の声を聴く」宇佐美まこと著
うまいなあ、宇佐美まこと。ストーリーの先が読めないから、どんどん引き込まれていく。とってもスリリングだ。
「月世界」というリサイクルショップがある。ヘンな名前であるのは、ダンスホールだったときのネーミングをそのまま使っているからだ。店主は偏屈な老婆、野口タカエ。そこでアルバイトしているのは、重松大吾。あとは、ゴールデンレトリバーの血が混ざった老犬ヨサク。このリサイクルショップに堤隆太が通うようになり、物語が始まっていく。
最初は連作ふうだ。カブト虫の幼虫が全滅したのはなぜか。息子に化けて庭にやってくるタヌキは何を言いたいのか。別れて暮らしている母と妹は、なぜ長姉と会わないのか――リサイクルショップ「月世界」は何でも屋でもあるので、さまざまな相談が持ち込まれるが、そのたびに定時制高校の同級生である大吾と隆太が奔走することになる。その意味でこれは連作ミステリーだ、半分までは。
うまいなあと思うのは、その3つの「事件」が微妙に絡み合って1つになり、後半につながっていくことだ。もっと大きな謎に向かって、ぐんぐん進んでいくことだ。
個性豊かな登場人物が次々に立ち現れるので彼らのドラマを読んでいるだけで引き込まれるし、おお、とても全部をここに書き切れない。奥行きのある、余韻たっぷりのラストまで一気読みの傑作だ。
(朝日新聞出版 740円+税)