北尾トロ(ノンフィクション作家)
11月×日 ラジオの収録で都心へ。帰りの特急電車内は絶好の読書室だ。「藤沢周平 遺された手帳」(文藝春秋 700円+税)は長女である遠藤展子さんの解説付きで読むことのできる、藤沢周平が3冊の大学ノートに書き残した日記やメモ。全集を繰り返し読む周平ファンの僕にとって、人気作家がどのように構想を練り、膨大な仕事をこなしていったのか窺い知ることのできる貴重な資料でもある。堪能した。
11月×日 タイトルに惹かれて買った「世界のひきこもり」(寿郎社 1800円+税)を、新宿末広亭帰りの電車で読み始めたら、たちまち引き込まれた。なんといっても、著者のぼそっと池井多氏が35年来のひきこもりである点が強力。読者は彼が創設した「世界ひきこもり機構」にアクセスしてくる世界中のひきこもりとの対話を通じて、彼らの事情や考え方に触れることができる。
なぜひきこもるようになったのか。部屋の中で何をし、何を考えているのか。今後どうしたいのか。語られる言葉は切実で、学者や評論家の分析よりはるかに説得力があり、ドキドキしながら一気に最後まで読み終えた。
11月×日 出版社や知り合いの物書きから新刊が送られてくることがよくある。今日はライターのカルロス矢吹氏の「世界のスノードーム図鑑」(産業編集センター 1500円+税)が届いた。故・百瀬博教氏がスノードームの本を出したがすでに絶版。現役本としては唯一のものかもしれない。海外に行くたびにコツコツ買い集めたコレクションをまとめたものだという。球体に封じ込められた“雪降る光景”を眺めているだけでほんわかした気持ちに…、還暦過ぎのオヤジがほんわかしてどうすんだよ!
11月×日 古典文学や日本史を、あらぬ方向から照らして考察させたら古典エッセイストの大塚ひかり氏がピカイチだ。タイトルからして「くそじじいとくそばばあの日本史」(ポプラ社 860円+税)だもんなあ。おもしろそうな予感しかしない。内容がまたキレキレで、したたかでカッコいいジジババが目白押し。いい仕事してるなあ、と同業者の端くれとして思う。僕も来年はがんばろう。