「見えないスポーツ図鑑」伊藤亜紗、渡邊淳司、林阿希子著
不思議な書名だが、実はスポーツ選手がプレーしているときに感じる感覚に注目して、目では捉えられない各競技の本質が体感できる図鑑なのだ。
そもそもは視覚障害者とスポーツ観戦する方法を探る研究が発端だった。スポーツ観戦の一体感や質感、運動そのものを感じるような楽しみ方を模索する中、一本の手ぬぐいに行きついた。
空手経験者と目の見えない人が手ぬぐいの両端を持ち、動かしてみると、言葉でのように技の詳細は伝わらないが、体験者は空手のリズムや激しさをダイレクトに感じることができ、臨場感や緊張感も高まったのだ。伝達するのではなく試合のダイナミズムに巻き込み、体感してもらう新しい観賞法の誕生だった。
このように、さまざまなスポーツの専門家を招き、その競技の本質を身近な道具で体感できるように「翻訳」していく過程を紹介していく。
例えば、卓球ならラリーの速さに注目しがちだが、その道のエキスパートである吉田和人氏によると、本質はそこだけではないという。多くの局面で球の回転の読み合いが重要になり、球を打ち合いながら相手がかけてきた回転を適切に見極め対応することが卓球の本質だという。
そうした知識を得て、吉田氏と共に試行錯誤を繰り返し、100均で買った木製の鍋蓋を体験者が持ち、その縁をスリッパで叩くという方法を編み出す。
こんな具合にラグビーからテニスやセーリングなど10種の競技を「翻訳」。
フェンシングなど4種のスポーツは、もとの競技の本質を保ったまま、それを最大限味わえるように新たに別種の競技までつくり出し、スポーツを観戦することから「感戦」、さらに自らプレーする「汗戦」へと進化させる。
スポーツの新たな楽しみ方を伝える面白本だ。
(晶文社 2000円+税)