奥野修司(ノンフィクション作家)
1月×日 最近、若い人たちに会うと違和感を覚えることがよくある。例えば、打ち合わせの席でテーブルに置いたスマホをチラチラ見るのもそうだ。会話は成り立つのに、心ここにあらずで、落ち着かない。それがアンデシュ・ハンセン著「スマホ脳」(新潮社 980円+税)を読んで納得できた。
人間はドーパミンという報酬系のホルモンが出ると達成感や満足感を得るが、スマホを手にするだけでドーパミンが放出されるという。麻薬で中毒になるのと同じで、持っているだけでも依存症になってしまう。もちろん集中力が阻害されるから、側に置くだけで学習能力が落ちる。
このスマホのメカニズムを巧みに利用したのがFacebookやInstagramなどで、そのアルゴリズムは、脳の依存性をハッキングするように作られたのだという。SNSの着信音が鳴るだけで手が出るのもそうだ。
それに気づいたアップル社の創業者スティーブ・ジョブズは、我が子にiPadを触らせなかったというから、かなり怖い話である。
文部科学省は学校へスマホの持ち込みを容認したり、タブレット導入を進めたりしているが、日本の教育レベルを、さらに低下させることに気づいているのだろうか。
1月×日 Netflixの「未解決ミステリー」の取材を受けたのがきっかけで登録したのだが、普段からそんなに映画を見る訳ではないから、多すぎてどれを選べばいいかわからない。そんなときに読んだのが森田健司著「孤独のキネマ 厳選108本+α」(松柏社 1600円+税)。
これが実に便利で面白い。例えば敗戦の9年後に公開された「七人の侍」を、〈当時の観客は「あの戦争で勘兵衛みたいな指導者がいてくれたら」と思っただろう〉などと、歴史に重ねた解説を読むと、既に観た映画でももう一度見たいと思ってしまう。視点が変わるだけで映画の評価も変わるのだから、不思議な映画評論である。おかげでレンタルショップに行くのも楽しみになった。