「舞台と客席の近接学」野村亮太著

公開日: 更新日:

 コロナ以前、劇場や映画館は密が当たり前だった。実は、観客たちがドッと一斉に笑うなど劇場内で感情が伝播するには、観客同士の距離が大きく影響していたという。人間には、相手の姿勢や表情を無自覚に察知して模倣し、これにより感情も喚起されるというメカニズムがある。人数にかかわらず観客密度の高い劇場ほど、笑い声の大きさや頻度が高くなるという研究結果もある。

 しかしコロナ以降、多くの劇場では密を避け、客席の間隔を広く開けることを余儀なくされている。当分の間コロナ以前の環境に戻れないとすれば、劇場はどのように変化すればかつてのような盛り上がりを取り戻せるのか。本書では、映画や演劇などの上映・上演芸術を対象に演者や観客の思考や創造性などを研究する「劇場認知科学」の専門家が、新たな劇場の形を創出するヒントを探っていく。

 観客同士の感情の相互作用を引き起こす要素は、さまざま考えられる。例えば、緊張感や興奮感は発汗を生じさせるため、嗅覚情報で伝播する可能性もある。しかし、これも密を禁じられ換気が徹底された世界では効果を発揮しにくい。

 ただし、距離の制約を克服することは不可能ではない。体温を伝える空気が要素になっているとすれば、小型のウエアラブル装置で暖かい空気を吹き付けるといった操作も考えられる。湿度が関係していれば、鼻の中に鼻栓のような装置を装着して湿度を変化させることも可能だと本書。

 現時点では冗談のような光景だが、従来の常識に基づいた判断はいったん脇に置こう。かつてのように混み合った客席で起きていた現象を分析し再現できれば、距離に負けずに盛り上がる劇場は生み出せるはずだ。

(dZERO 1800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭