「コロナ後の教育へ」苅谷剛彦著
新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を被ったのは企業ばかりではない。2020年3月には全国一斉の休校措置が取られ、学校カリキュラムは混乱。多くの大学がオンラインによる授業にかじを切り、入学以来一度もキャンパスに通ったことがないという学生も出現している。
人材という貴重な資源を育成するには、今こそ教育の在り方を見直す議論が必要だ。本書では、オックスフォード大学で10年余り教壇に立った著者が、日本の教育の課題を浮き彫りにし、進むべき方向性のヒントを提示している。
私たちが直面している地球規模のリスクは、もはや理系の学問だけでは解決できず、社会科学や人文学の分野にとっても重要な課題だと著者は言う。例えば、ウイルス感染を懸念する個人にどれだけ検査を受ける権利を与えるべきか、外出許可や集会の開催許可範囲をどうするか、政府による制限にどれだけの正当性があるか。このようなもろもろの問題は倫理や道徳、価値観にも深く関わり、文系の学問の領域に関係する。
ところが海外と比較して、日本では文系学問の貢献が目に見えにくく、“役に立つかどうか”で学問や研究の価値づけがされやすいため人材も育ちにくい。他方、世界のトップ大学に君臨するオックスフォード大学では巨額の寄付によって人文学研究センターが建てられ、理系と文系の研究者による共同研究の場が設けられている。緊急事態にも活躍できる人材育成がなされているということだ。
ビッグデータを活用して学校のICT格差をなくす方法や、パンデミックで浮き彫りになった日本の大学のグローバル化の遅れなどにも言及する本書。コロナ禍は日本の教育を再構築する機会とも言えそうだ。
(中央公論新社 860円+税)