「富士山と山麓の野鳥 季節ごとに」水越文孝著
日本野鳥の会に所属し、探鳥会では鳥の案内をする指導員も務める著者の作品集。長年、野鳥は「観察」するもので「撮る」という発想がなかったという著者だが、カメラの高性能化にあわせ、2003年ごろから自らも撮影するようになり、本書はその集大成だそうだ。
書名からもお分かりのように、撮影地は氏が所属する日本野鳥の会富士山麓支部の探鳥会で案内する場所が中心。山地帯から亜高山帯までの森林、さらにさまざまな河川や湖沼、草原が点在する富士山とその周辺には、それぞれの標高と植生に応じて多くの野鳥が生息する。そんな楽園に棲む鳥たちを季節の変化とともに紹介する。
3月、富士山の伏流水だろうか、2つの小川が合わさり、とうとうと流れ落ちる小さな滝を登るかのように巣に向かって飛ぶカワガラスをはじめ、鮮やかにほころび始めた桃の木につかまる渡りを控えたジョウビタキ、前日の雪で一面の冬景色の中、屹立する樹木から伸びた横枝で獲物を探すかのようなノスリなど、大自然の景色に溶け込んだ野鳥たちの一瞬を捉える。
4月、巣材の泥を集めるイワツバメやアカゲラが樹木に作った穴の入り口を自分たち用にリフォームするゴジュウカラなど、鳥たちは繁殖の準備に忙しそうだ。
オオルリやウグイス、メジロなど、鳥たちが相手を求めてさえずる声と姿は美しいのだが、その表情は険しく真剣そのものだという。
まだ雪に覆われた雄大な富士山が背後に迫る風景の中で満開のシダレザクラの枝でさえずるヒガラを捉えた写真など、まるで一幅の掛け軸のようだ。
5月に入ると、フジの花とオオヨシキリや草むらで虫を探すアマサギ、夏鳥の季節到来を告げるキビタキ、そして狩りの獲物に逃げられ枝で小休止するハイタカなど、自然の鼓動の高まりとともに、現れる鳥たちの種類も一気に増える。
以後、1メートル近づくのに5分もかけて距離を縮めてようやく撮影できたオオジシギや、200メートルも離れた場所から撮影しようとしても警戒したという絶滅危惧種のブッポウソウ、そしてサンコウチョウなど日本で繁殖する夏鳥を撮影した6月の作品に続き、ツバメやノビタキの巣立ちを捉えた8月など、100余種の野鳥を撮影された月別に並べ、撮影場所も添えて紹介。
森の中で鹿の死体に群がるハシブトガラスや、吹雪の中でモミ殻山から人が立ち去るのをじっと待っているスズメなど、都会でもお馴染みの鳥たちも、ここでは別の顔を見せる。
野鳥はとりわけ環境の変化に敏感な生き物だ。遠く離れた異国の生息地や繁殖地の環境悪化、さらに温暖化も加わり、日本在来の鳥だけでなく、渡り鳥を巡る環境は深刻化している。登場する野鳥たちの姿に日本の自然の豊かさを再認識するとともに、その行く末を案じてしまう。
(三省堂書店 2420円)