「OFF GRID LIFE」フォスター・ハンティントン著 樋田まほ訳
10年前、著者は「住宅という枠組みにとらわれずに暮らしたい」とニューヨークのアパートをひき払い、手に入れた1987年製の車で旅に出た。
3年をかけて北米大陸15万マイルを巡り、次のすみかについて考えるようになった著者は、「都会に住みたいと思う理由がない」ということにすぐに気づく。ニワトリやヤギが飼える庭や、焚き火、炭火での料理、人に見られる心配もなく外でおしっこをする自由は欲しいが、やりたくない仕事をしなければ支払えないほどの住宅ローンは抱えたくはない。
結果、人里離れた田舎を探し、ワシントン州のコロンビア川渓谷を見下ろす休火山の山頂にダグラスファー(米松)を利用して2棟のツリーハウスとそれをつなぐ橋を造り、暮らし始める。ツリーハウスの根元には、薪で焚く露天風呂まで備えられている。
生活のありとあらゆるものが分業化し、製品やサービスとして誰かの手を借りないと暮らしが成り立たない現代。自分のすみかを自ら手掛けるというのは、自分の生活を自分で取り仕切る方法の中でも最も簡単で最も実現しやすいもののひとつだと著者はいう。
自らの手で自らの家を建てて住む人々とその住まいを紹介するビジュアルブック。
まずは、どうやって建築資材を運んだのか、疑問を抱いてしまうような深い山中や森の中に立つ小屋が並ぶ。
まるで温室のような壁いっぱいのガラス窓から絶景を望む湖畔の小屋の優雅なリビングルーム、先住民のティピーを彷彿とさせる三角形のとんがりログハウス、そして岩山の山頂のような場所に建てられた石積みの小屋など。
「オフグリッド」とは、水道や電気、ガスなどの公共サービスから切り離された建物やそうした生活様式の意だが、最高のロケーションに建てられたそれぞれの物件を見ていると、その言葉からイメージされる前時代的な暮らしとはかけ離れた、最先端のおしゃれ空間に見えてくる。
それを可能にしているのはソーラーパネルの存在かもしれない。
オレゴン州フッドリバーカウンティーで暮らすツリークライマーのカファーキー氏は、オフグリッド生活を始めた当初は、ろうそくやランプを照明に使っていたが、太陽光発電を導入した現在は冷凍庫なども使用しているという。
そう聞くと、なんだか自分にもできそうな気がしてくる。
他にも、コンテナを転用した住居やモンゴル風テント「ユルト」をはじめとしたテント暮らし、さらには、廃材を利用した構造物が半ば土に埋もれたような設計の「アースシップ」と呼ばれる住居スタイル、さらに著者のようなツリーハウスやヨット、車で暮らす現代の遊牧民まで。自然の中で自由に暮らす人々の個性豊かな住まいとそのライフスタイルに迫る。
日本でも福島第1原発事故を機にオフグリッドライフへの注目が集まった。オフグリッドとはいかないまでも、田舎回帰の動きが高まりつつあるコロナ禍の今、本書がこれからの住まいについて考えるヒントと啓示を与えてくれる。
(トゥーヴァージンズ 2970円)