「文豪たちの住宅事情」田村景子編著 田部知季ほか著
江戸川乱歩は46回転居したが、「二銭銅貨」を執筆したときは、妻と息子との3人で大阪府北河内郡守口町の父親の家に居候していた。
乱歩は屋根裏をのぞいた経験を「屋根裏の散歩者」に生かしている。その屋根裏は「細長い下宿屋の建物」に設定されていて、都市と住宅が変貌していく時代を描いた。〈夢幻の世界へ通じる「幻影城」〉
下級官吏の娘だった樋口一葉は、父の死後、借家を転々とする生活を余儀なくされた。下谷区竜泉寺町は吉原遊郭の近くで、その地で見たことをもとに東京市東部に生きる上層から下層の人たちを描いた作品を残した。〈首都東京の借家から世の中へ戦を仕掛ける〉
住居から文学作品を考察したユニークな視点の本。
(笠間書院 1980円)