「サラ金の歴史」小島庸平著/中公新書
消費者金融(いわゆるサラ金)の歴史と現状に関するユニークな研究書だ。小島庸平氏(東京大学大学院経済学研究科准教授)は、とりあえず善悪の価値判断を留保して、現象としての消費者金融を客観的に解明しようとする。
<本書は、サラ金業者の非人道性を告発・暴露するというより、その経済的・経営的な合理性を、あくまでも内在的に理解しようと努めてきた。いかに強欲で異常に見えても、人間の経済的な営みである以上、その行動はある程度までは合理的に説明できるはずである>
もっとも冷静な筆致で紹介される借金地獄の事例には迫力がある。
本書を読んでわかるのは、庶民の生活が借金と切り離して考えられないという現実だ。消費者金融も現在ではほぼ大手銀行の傘下に組み込まれている。
<サラ金の歴史は、日本社会に生きる多くの人びとと決して無縁ではなかった。たとえ利用者ではなくとも、預金口座で給与を受け取り、わずかであっても金融機関に金を預けている私たち自身が、究極的にはサラ金の金主だった。現代を生きる私たちには、スマートフォンの画面の向こう側にいる見知らぬ個人に金を貸し、素人高利貸となって一儲けするチャンスさえ開かれている。/これまで、日本社会と消費者金融との間の深いつながりは、サラ金への轟々たる非難の声にかき消され、ともすると見えにくくなっていた。しかし、他ならぬこの日本社会が生んだサラ金の歴史を正面から見定めると、思いがけず私たちの暮らし方・働き方に深く関わっていたことが明らかになる>
コロナ禍により格差が拡大している。収入が減少した人々が、これまでの生活水準を維持しようとすれば、借金に依存せざるを得ない。最近では、消費者金融ではなく、親族間や友人間での融資も増えているということであるが、これが消費者金融が生まれる前の高利貸し文化の再来のように思えてならない。資本主義は、人間の欲望を刺激し、消費を拡大することによって発展してきた。資本主義が続く限り、形態は変化しても消費者を対象とする貸金業が消滅することはない。カネとは上手に付き合っていかなくてはならない。
★★★(選者・佐藤優)
(2021年5月12日脱稿)