「絶滅危惧種東南アジアの霊長類」奥田達哉著
温暖化の進行で、今年の夏も過酷な暑さを経験することになりそうだ。しかし、本はといえば我々人類が招いた結果である。地球上では、後先を考えない人間の活動によって、何の罪もない動物たちが毎日のように姿を消している。そして、今まさに絶滅か否かの線上にいる動物たちも数多く存在する。
そうした絶滅の危機にある東南アジアの霊長類を撮影した野生動物写真集。地球上には約500種の霊長類が生息しており、東南アジア10カ国には約100種類がいるという。
本書では、その中からユニークな17種類の霊長類を絶滅リスクが高い順に紹介する。巻頭に登場するのは、野生での絶滅リスクが極度に高い「近絶滅種」に分類される「アカアシドゥクラングール」だ。
「世界で最も美しい」といわれるこのサルは、5色の体毛を持ち、名前の「アカアシ」はすねの毛が赤いことに由来する。
ベトナムやカンボジア、ラオスなどに生息するが、ベトナム戦争で生息地が激減、その後も食用や漢方薬の原料にするための密猟と森林破壊によって、過去3世代で80%も個体数が減少した。収録された一連の写真は、ベトナム中部の海に面した急斜面の森で撮影したものだというが、この森もリゾート開発のリスクに脅かされているそうだ。
そんな脅威が身に迫っていることも知らずに、主食の植物の葉を食べる様子や、濃密な関係が伝わってくるファミリーショット、そして手足でしっかりと枝をつかみ樹上で寝る姿など、豊かな森の中でのびのびと過ごす姿をとらえる。
そんな中に、人間のように手を膝に置き物思いにふけっているような一枚がある。すべてを察しているかのようなその聡明な瞳とたたずまいに彼らを追い詰めている人間のひとりとして、後ろめたささえ感じてしまう。
同じくベトナム北部の石灰岩のカルスト台地に生息する「デラクールラングール」は、世界の霊長類の中で最も絶滅リスクが高い種のひとつ。
まとまった個体数が残る生息地は、実質1カ所しか残っておらず、野生個体数は250以下だという。
黒い体に、白くて大きなパンツをはいたような体毛とモヒカンのように逆立った頭頂部の毛がなんとも個性的に見える。一方、その赤ちゃんはオレンジ色がかった金色に輝き、神々しい。
彼らは垂直に見える絶壁を自在に移動し、洞窟で眠る。
その他、ヒトとDNAの98%を共有するアジア唯一の大型類人猿「ボルネオオランウータン」(ボルネオ島)をはじめ、黄金色で生まれ、成長するとオスは黒色に頬が黄褐色、メスは全体に褐色へと体色が変わる「キホオテナガザル」(ベトナム南部)や、黒い顔に目の周りの白い縁取りが印象的な「ダスキールトン」(タイ中西部)など。
自分たちが置かれた状況を知らずに、与えられた命を精いっぱい生きるサルたちの姿にさまざまな思いが湧く。
(青菁社 2640円)