「うらんぼんの夜」川瀬七緒著
大百舌村で暮らしている遠山奈穂は、空き家に引っ越してきた北方亜矢子と親しくなった。都会者を警戒する村人は夜中に、亜矢子の家に食べきれないほどの野菜をこっそり置いていって、誰にお礼を言えばいいのかわからない北方家の人を「礼儀がなっていない」と吹聴して歩く。
村には、年寄りの信仰があつい、風化して凹凸もなくなった地蔵があった。ある日、奈穂は、村の者以外は近づいてはいけないとされている地蔵の顔に亜矢子が触れるのを見てしまう。盂蘭(うら)盆会の日、奈穂の家で数珠まわし念仏が始まったとき、奈穂はうっかり、亜矢子が地蔵参りをしたことを口にする。
因習にとらわれた村で起きた事件を描くミステリー。
(朝日新聞出版 1760円)