「がっかり妖怪大図鑑」村上健司著
今年も猛暑が続くが、エアコンも冷蔵庫もなかった時代のご先祖たちは、怪談話で涼を得ていた。幽霊と共に怪談に欠かせないのが妖怪だ。多くの妖怪は、人を襲って食べるなど、えたいの知れない恐ろしい存在だ。だが、中には思わず笑ってしまうような妖怪やまぬけな妖怪、可愛い妖怪など、さまざまなタイプがいる。本書は、そんな見るからに残念で、がっかりする妖怪を集めて紹介するユニークなイラスト図鑑。
例えば、徳島県鳴門市の「赤殿中」という豆だぬき。赤い殿中羽織を着た子供に化けるのが得意で、夜道を歩く人に「おんぶして」と声をかける。無視すると、しつこくまとわりつき、おんぶしてあげるとうれしそうにはしゃいで、その人の肩を軽くたたく。そんないたずらしかしない化けだぬきだそうだ。
こうした「やることにがっかり」な妖怪をはじめ、炭焼き小屋に現れて火であぶって風呂敷のように広がった金玉袋で人間をくるむ「大風呂敷」などの「下品すぎてがっかり」な妖怪や、妖怪の総大将といわれるが、さまざまなエピソードは後の時代に作られたもので、もともとは名前と絵だけが描かれた「ぬらりひょん」などの「正体にがっかり」な妖怪など、テーマごとに109種の妖怪が登場。
中には、人間を食べようと山から下りてきたものの人間が長芋をすりおろしているのを見て、鬼の角をすりおろしていると勘違いして逃げた鬼や、ご飯が炊きあがったばかりの釜に手を突っ込んでやけどしそうになったてんぐなどポピュラーな妖怪たちの意外な一面を紹介する章もある。
各地の民話や伝承に登場する妖怪たちの情けないエピソードやトホホな一面がコロナでぎすぎすした心をほどいてくれる。ステイホームの夏休み、子供と一緒に楽しもう。
(誠文堂新光社 1320円)