「隈研吾建築図鑑」宮沢洋画・文
オリンピックで世界中の視線を集める新国立競技場の設計者・隈研吾氏。押しも押されもせぬ日本を代表する建築家が、これまでに手掛けたプロジェクトはまもなく1000件の大台に届くという。
その中から主要なプロジェクト50件を選び、グラビアとイラストでリポートする丸ごと隈研吾本。
氏の設計の根底にある「サービス精神」が色濃く表れたプロジェクトの中でもひときわ目立つのが「M2」(1991年竣工)。もともとは自動車メーカーの子会社の本社ビルだったが、現在は葬祭場に転用されている。
その転用に、まったく違和感がないのは、現在の氏の作風からはかけ離れた、コテコテ感にあふれ、神殿のような造形だからだ。同業者からも批判され、その後10年間、東京での仕事がなくなったとのいわくつきの物件だが、存在感はさすが。
さらに「地獄組み」という伝統的な木組みを応用し、鳥の巣のような構造体を造り出したパイナップルケーキ専門店(2013年)など、「誰もがひと目見てびっくり」するような建築を「びっくり系」と名付けて紹介。
氏は国を代表する施設を設計する一方で、「横丁」の小店舗も手掛ける。
その一例として吉祥寺ハモニカ横丁の「ヤキトリ てっちゃん」の系列3店なども取り上げる。どれも小店舗といえども手を抜くことなく、隈イズムにあふれた物件だ。
他にも転換点と言われる「那珂川町馬頭広重美術館」(2000年)など、見る者を物語に引き込む「しっとり系」をはじめ、使う人々の暮らしに寄り添い、日常をより楽しくしてくれる「ふんわり系」、そして外観を消し、日常に溶け込みながら新しい場をつくる「ひっそり系」の4つに分類して完成年次順に紹介。日本を代表する建築家の進化の過程をたどる面白本だ。
(日経BP 2640円)