「深尾くれない」宇江佐真理著
かのは初婚だが、訳あって、鳥取藩士・深尾角馬の後添えの内妻となる。角馬は馬廻(うままわり)の平士だが、父親の代から藩の剣法指南役を引き受けており、一目を置かれる存在だった。
嫁いだ日、かのは深尾家の庭で見事な花を咲かせる牡丹に目を奪われる。付き添いの伯父によると、牡丹は角馬が丹精したものだという。共に暮らす中、かのは己の体格に劣等感を抱く角馬が人一倍の反骨心を秘めていることを知る。極めた丹石流が時代遅れになったことを思い知らされた角馬は、新たな流儀「雖井蛙流(せいありゅう)」を打ち立てる。一方のかのは、角馬が不義を犯した前妻を斬り殺したことを耳にする。
2人の妻、娘の縁談相手の父子を斬り殺した実在の武士・角馬の壮絶な人生を妻と娘の視点から描いた長編時代小説。
(朝日新聞出版 880円)