「あなたにもある無意識の偏見」北村英哉氏

公開日: 更新日:

「単身赴任中と聞くと父親が単身赴任だと思う」とか、「女性はこまやかな気配りができて世話好きだ」など、あなたにはそれが常識だと思い込んでいるステレオタイプ的な考え方はないだろうか。こうした無意識の偏見(=アンコンシャスバイアス)が、思わぬ失言や横暴な態度を引き起こすことを例示しつつ、失敗を避けるための実践的な対処法を指南した中高年必読の書だ。

「アンコンシャスバイアスの例としてわかりやすいのが、JOCの臨時評議会で森元首相が漏らした『女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります』という発言ですね。国内外から批判が殺到して謝罪したものの結局辞任せざるを得ない状況に追い込まれた。どうして失言や放言が繰り返されるのか、社会の中でそれを減じるためには何ができるのか、特に中高年男性に読んでほしいと思って書きました」

 本書には、冒頭、自分自身のアンコンシャスバイアスに気づけるツールとして、「育休取得や時短勤務を選択する男性社員は、昇給欲が低いと思ってしまう」とか「シニアはパソコンが苦手」「お酒が飲めない社員はつき合いが悪いと思う」など10項目のチェックリストが載っている。

■偏見に気づき、乗り越えるための7つのステップ

 さらに、無意識の偏見に気づき、乗り越えるための方策として紹介するのが次の7つのステップだ。

①相手と自分を置き換える②自分を振り返る③対話してみる④個人対個人の問題と考える⑤自分も得をしているのだと考える⑥「自分も変わることができる」と信じる⑦誰も自分の未来はわからない。

 この7つのステップを一気にやろうとせず、少しずつでも着実に試すのがいいらしい。また、言いたいことをすぐに口にせずに待ってみたり、まずは黙って相手の声に耳を傾けたりすることから始めてみることで、身近な人間関係も円滑になっていくと著者はアドバイスする。

「一昔前だったら、『気にしすぎじゃないか』とか、『そんな細かいことをいわなくてもいいじゃないか』と見過ごされてきたり、当たり前だと我慢してきたことであっても、今は誰もがおかしいと思うことにはすぐに声を上げるようになりました。アンコンシャスバイアスによって生み出される言動で周囲に無意味なストレスを与えれば職場の生産性も下がりますし、何もいいことがありません」

 最近では、ジェンダー平等を揶揄した報道ステーションのCMが大炎上して撤回された例や、トヨタが「女性に質問です。やっぱり運転は苦手ですか?」とツイートして謝罪に追い込まれた例や、美術館女子と銘打った読売新聞の連載が公開直後からネット上で激しく批判されて2週間で公開終了になった例など、枚挙にいとまがない。

「おじさん世代が知らずに身に付けた、『女性は遠慮して一歩下がっているほうがいい』や『女性は運転が苦手だ』などのアンコンシャスバイアスがこうした炎上の下地にあるんですね。そうしたアンコンシャスバイアスを抱えたままでいると、いきなり責任者を解かれたり、左遷されたり、クビになったりと、一瞬で社会的な地位が吹っ飛ぶこともままあります。正直気づきたくないかもしれませんが、気づかないまま、いきなりクビになるより今気づいて修正した方がマシですよね。人に責められる前に、自分で気づいた方が得。過去の自分に対して責任をとらせようと迫ってくる人がいないうちに対処すれば、あなたの人生がハッピーで安全になるし、寝首をかかれなくて済むわけですから」

 自分のアンコンシャスバイアスをまき散らして周囲を困惑させる人というのは実は少ない。むしろ森元首相の発言の場合のように、笑ってやりすごした人の方が多かったはずだ。そんな加害者になっている人の周囲でもやもやしている人たちも、これからのリスクヘッジのためぜひ読んでおきたい一冊だ。

(河出書房新社 979円)

▽きたむら・ひでや 東洋大学社会学部社会心理学科教授。専門は社会心理学、感情心理学。著書に「認知と感情」「なぜ心理学をするのか」、共編著書に「偏見や差別はなぜ起こる?」「心理学から見た社会」、監修に「まんがでわかる社会心理学」などがある。

【連載】著者インタビュー

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇