「文体の舵をとれ」アーシュラ・K・ル=グウィン著 大久保ゆう訳

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 ル=グウィンといえば、ジブリ・アニメにもなったファンタジーの傑作「ゲド戦記」シリーズや両性具有の世界を描いたSF「闇の左手」などの作家として有名だ。

 本書はル=グウィンが作家志望の生徒を相手に開いた執筆講座のワークショップをもとにまとめたもので、文章講座の役割と共にル=グウィンの創作の舞台裏を垣間見ることもできる。

 本書で取り上げられるのは、「自分の文のひびき」「句読点と文法」「繰り返し表現」「形容詞と副詞」「動詞:人称と時制」「視点(POV)と語りの声(ヴォイス)」「視点人物の切り替え」等々で、それぞれ例文を挙げ、練習問題が添えられるという構成だ。例文として登場する作家は、キプリング、マーク・トウェーン、ジェイン・オースティン、バージニア・ウルフ、ディケンズ、トールキン、シャーロット・ブロンテ……。これらの名前で、ル=グウィンが幼い頃からどのような物語世界に接してきたのかが見えてくる。

 時制の問題など、日本語と英語の違いによってわかりにくいものもあるが、視点や視点人物の切り替えなどは有用な示唆に富んでいる。物語を書くにおいて、語り手の視点を一人称、三人称限定、あるいは多視点で書くかは重要な問題だ。

 たとえば、デラという女性の三人称限定視点で書いた場合、「デラは、愛するロドニーの顔を見上げた」とは書けても、「デラは、その信じられないほど美しいすみれ色の瞳を、愛するロドニーの顔へと向けた」と書けない。なぜなら、見上げた本人から自分の瞳は見えないからだ。また、SFやファンタジーの作家はその世界がどういう状況にあるかの情報の出し方が重要で、物語内でいかに自然に説明していくかは作家の技巧が試されるところだというのも、実作者ならではの言葉だろう。

 最後にこう書く。

「わたしのなかに、語られたがっている物語がある。……物語の焦点を見つけ出し、物語の流れに従ってゆけたのなら、きっと物語がおのずから語り出す」

 その語られたがっていた新しい物語をもう読めないのは残念だ。 <狸>

(フィルムアート社 2200円)

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