「中野のお父さんの快刀乱麻」北村薫著
「小説文宝」の編集長、百合原ゆかりの義父は落語のレコードを集めていた。義父の死後、義母が古今亭志ん朝の「三軒長屋」という噺(はなし)が聴きたいという。義父は志ん朝の落語は生で聴くものだと思っていたようで、志ん朝のレコードはあまり持っていない。大物作家の村山富美男が持っているCDを貸してくれたのだが、なぜか義母は通り一遍のお礼を言っただけ。それを聞いた編集者の田川美希の父は、ゆかりの義母が聴きたかったのは「見事な拍手」だったのではないかと喝破した。(「古今亭志ん朝の一期一会」)
他に「小津安二郎の義理人情」など、コタツ探偵が日常の謎を解く推理小説6編。
(文藝春秋 1705円)