宮本昌孝(作家)

公開日: 更新日:

12月×日 インタビュー掲載紙「この時代小説がすごい! 2022年版」(宝島社 990円)が届いた。同誌の単行本ランキングで拙著「天離り果つる国 上・下」(PHP研究所 各2090円)が第1位を獲得。読後の感動も薄れただろう昨秋の刊行作なので、まことに望外の幸である。

 飛騨高山の宿がどこも中国人観光客に先を越され、やむなく薄暗い雑居ビルみたいなビジネスホテルに泊まった取材旅行を思い出した。あれから6年、いまならきっとどこでも予約がとれる。新型コロナ・ウィルスがもたらした隔世の感だ。

 新連載に向けた資料探しで地元の図書館へ行くことが増えているが、広い館内ではないから、常に他者との距離、滞在時間、書籍その他に触れる回数などを気にしてしまい、コロナは臆病な小説家の心身を疲弊させる。ほっこりしたくて読んだのが、女性作家たちの時代小説テーマ別アンソロジー第7弾「わらべうた」(PHP文芸文庫 814円)。

 書き出しの2行で物語世界へ引き込まれてしまうこと請け合いの宮部みゆきの「かどわかし」。アウトローな子らの真っ直ぐさと絆が心地よい西條奈加の「花童」。鷹ケ峰が冬に向かう季節感の中で薬草園を舞台とする上質なミステリーは澤田瞳子の「初雪の坂」。このまんま落語の一席として高座にかけてもらいたい中島要の「寝小便小僧」。「子どもだからといって、心が小さいわけではない」の一文が胸に刺さる梶よう子の「柴胡の糸」。少女にとっては恐ろしい経験でも、読者にすれば終始ほほえましく、幸せな気分で巻を閉じさせてくれる諸田玲子の「安産祈願」。

 説明の要もない名手らが江戸の童子を活写して上作揃い。男性作家限定でテーマを戦国合戦に特化した書下ろし“決戦シリーズ”(講談社)とは異なり、それぞれ既刊の自著所収作。にもかかわらず、こちらも女流たちが新たに愉しんで競作したような印象をうける。編者の細谷正充の作品選びと編み方が巧みなのだろう。続けてほしい傑作シリーズだ。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭