「眠れなくなるほどキモい生き物」大谷智通著 猫将軍絵
「入水自殺するカマキリ」「天敵であるはずのネコに近づいていくネズミ」――意思に反してカマキリやネズミをそうした行動に駆り立てているのは実は寄生虫だという。
カマキリを宿主にする寄生虫の正体はハリガネムシ。ハリガネムシは、カマキリの脳に作用する神経伝達物質を出し、光を反射する水面を見ると、水に飛び込むよう操っているという。なぜそうするのか、水中でカマキリから出て、パートナーと交尾するためだ。そして水中の石などに産み付けられたハリガネムシの卵は、孵化後、ユスリカなどの水生昆虫に取り込まれ、その体内で休眠。水生昆虫が羽化して陸上に移動後、カマキリなどに捕食されると、その体内で休眠から目覚め、寄生生活が始まる。
彼らが宿主を入水させるのは、次世代により良い環境を残すためでもあり、小さな体で宿主のみならず生態系さえも操作しているのだとか。
本書は、このように狡知にたけた戦略家をはじめ、グロテスクな姿をしたものや、人間にとりつき、時に死をもたらすものまで、おぞましくも不思議な生態の寄生虫を紹介するイラスト図鑑。
冒頭で紹介したもうひとつのエピソードの主役はトキソプラズマ原虫。ヒトを含むすべての哺乳類と鳥類に寄生する寄生生物界最大の成功者だ。全人類の3分の1が寄生されているそうだが、ネコ科の動物に行きついた時だけ次世代をつくる。
一方でトキソプラズマに寄生されたネズミは、恐怖心が薄れ、あろうことかその尿の臭いにひかれネコに近づくという。
そんな身の毛のよだつような寄生虫が次から次へと27種。怖いもの見たさでついついページを繰ってしまう。もしかしたら、最近のネコブームも人間に寄生したトキソプラズマの仕業かも。
(集英社インターナショナル 1870円)