「お寺の掲示板 諸法無我」江田智昭著

公開日: 更新日:

 お寺の門前に設置され、布教活動の一環として仏教の教えや名言、至言を掲げる掲示板の歴史は100年以上に及ぶそうだ。

 その掲示板の写真をSNSに投稿して、メッセージのありがたさやインパクトなどによって賞を贈る「輝け! お寺の掲示板大賞」から生まれた写真集第2弾。

 本書では2019、20年に投稿された作品を紹介しながら、大賞の企画者で現職の僧侶でもある著者が、それぞれの言葉を解説してくれる。

 冒頭に紹介されるのは、20年の大賞作品に選ばれた熊本県球磨郡湯前町の明導寺の掲示板。

 そこに記されていたのは「コロナよりも 怖いのは 人間だった」との言葉。これは神奈川県のドラッグストアの店員さんのツイッターでのつぶやきで、ツイート当時は新型コロナが猛威を振るい始め、人々がマスクを求めて殺気立っていた。

 人はこの掲示板に、傍若無人な振る舞いをする「他人」の姿をイメージし、無意識に「コロナよりも怖いのは他人だ」と心ですり替えてしまう。

 著者はさらに踏み込み、浄土真宗に伝わる故事や、親鸞上人の教えを紹介しながら、他人の醜い本性に目を向ける前に、他者を平気で傷つける愚かで醜い自分自身の姿に気づくことの大切さを説く。

 他にも大ヒットアニメの登場人物のセリフ「老いることも 死ぬことも 人間という 儚い生き物の 美しさだ」(西本願寺鹿児島別院)、流行語を取り入れた「ぴえんもご縁 超えてご恩」(福岡県・永明寺)、NHKの人気番組の決めゼリフをもじった「ボーッと 生きても いいんだよ」(石川県・恩栄寺)、思い通りにならない人生を表すとともに、他人と比べることの愚かさを一言で表した「隣のレジは早い。」(東京都・延立寺)など。ちょっと笑えて、深くうなずく現代版ポケット経典。

(新潮社 1100円)

【連載】発掘おもしろ図鑑

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇