「吉祥寺ドリーミン てくてく散歩・おずおずコロナ」山田詠美著/小学館
小説家・山田詠美氏によるエッセーだが、読んで分かるのは同氏がストレスの少ない人生を送っているということである。とにかくムカつくことがあったら原稿用紙(手書き!)に罵詈雑言をぶつけ、違和感を覚えることがあったら、その根拠を述べたうえで「ねーねー、これっておかしくない?」と読者に同意を要求する。書き終えたところで「ふーっ、今日も好き放題書けてスッキリした、トントン(原稿用紙を揃えて机の上で整える音)。夫と一緒にハッピーターンのサワークリームオニオン味をつまみにシャンパンでも飲むか」とやっている姿が想像できる。
本書は女性セブンの連載をまとめたもので、多くが2020年以降発生したコロナ騒動の際に著者が感じたことや、社会で発生したことへの批評となっており、当時の空気感もよく分かる。
あと、重要なのが「中高年男性の失言」に関し、その問題点が指摘されている点だ。玉城デニー沖縄県知事に2018年の知事選で敗北した佐喜真淳氏の「女性の能力は年々上がっているから、さらなる質の向上やモチベーションを上げる環境をつくっていく」がやり玉に挙がった。
〈あのさー、質とか生産性って、工業製品なんかに使う言葉なんじゃないの? およそ人間を表現する際に使用する言葉とは思えないんですけど〉
また、「女性蔑視発言」で東京五輪組織委会長を辞任した森喜朗氏が自身について「老害」と発言したことについてはこう述べる。
〈「老」じゃなくて、あなたの人間性の問題でしょ〉
〈あんた、年のせいにしちゃ駄目だよ! お年寄りに謝れ!〉
こうした分析に加え、荻窪の横柄すぎる差別カレー屋のダブルスタンダードクソ店長への文句を書いたかと思えば、楽しみにしていたコンビニ前のベンチでの夫との飲酒が「路上飲み」を取り締まる警官のせいで実現できなかったことに文句を言う。「みんな、いろいろ事情があるんだよね、ウン、分かる」なんて妙に物分かりが良い二枚舌は使わず、「チクショー! こんな店来るか!」といったタンカを切るさまが実に心地よい。
さらには、「言葉」を重視する山田氏は以下の言葉をメタクソに叩く。「バタバタ」「おかあさん」「コロナ禍」「おうち」「おしごと」「東京アラート」──他にもあるが、私も大嫌いな言葉の数々だ。
生きていると本音を言えないことは多いものの、本書を読めば「よーし、明日はガツンと言ってやるぜ!」と後押しをもらえるだろう。 ★★★(選者・中川淳一郎)