「賃金破壊」竹信三恵子著/旬報社
中国文学者で魯迅の訳者でもある竹内好の故郷、長野県佐久市で竹内についての講演をして以来、竹内の本を読み返している。
1963年3月31日の日記に竹内はこう書いていて、改めてこの本のことを思った。
「きょうは私鉄の24時間ストが決行された。去年と同様、今年も新聞の予測は大きく狂った。取材能力が落ちているのか、それとも内面指導があるのか。たぶん両方だろう。先日の時限ストのときは、予報がまったくはずれたばかりでなく、翌日の紙面でスト反対の世論をネツ造していた。新聞はますます末期症状になり、それを救う道はないという1年前の私の判断は狂わなかったように思う」
それからおよそ60年経って、新聞の末期症状も進んだが、目を覆うほど劣化したのは労働組合だろう。いま、24時間ストなど考えられない。ストどころか、組合そのものが反社会的存在視されているからである。
この本の副題が「労働運動を『犯罪』にする国」。私は連合がそれに手を貸していると言わざるを得ない。個人加盟による産業別労働組合として関西生コンは、中小零細生コンの経営者とも手を結び、質の低下をいとわない大手ゼネコンの経営者に対抗して働く者の賃金を上げてきた。
それがゼネコンの経営者たちには怖かったのだろう。徹底的な組合つぶしをして、組合員を逮捕し、長期勾留の揚げ句に重刑を科している。この本でその具体例が描かれているが、驚くべきひどさである。
昨年の衆院議員選挙の後、自民党選挙対策委員長の遠藤利明は「決して楽な選挙ではなかった。相手方のいろいろな混乱があって、連合会長が共産党ダメよと、そんな話をしていたこともあって勝たせていただいた」と告白したという。
元自民党政調会長の亀井静香は「連合というのは、革新の仮面をかぶってるけど中身は自民党なんだよ。労使協調と言ってるだろう。経営者は自民党支持なんだから、結局自民党が勝つほうが今の労使協調体制を維持するのには都合がいいんだ。本当の労働者政党が政権を取ったら困ると思ってるんだよ」と喝破した。残念ながら、その通りなのだろう。連合会長の芳野友子は、まず、この本を読んで、労働組合とは何かを把握し、幼稚な反共意識を捨てるところから始めなければならない。 ★★★(選者・佐高信)