「AI監獄ウイグル」ジェフリー・ケイン著 濱野大道訳
中国西部、かつてシルクロードの要衝だった新疆ウイグル自治区が、SFを超えるディストピアと化してしまった。中国の少数民族は、無数の監視カメラとAIによる「デジタル監獄」で生きることを強いられている。
中国政府は、2013年から14年にかけて多発したテロ攻撃をきっかけに、テロリズム、分離主義、宗教的過激主義の3悪に終止符を打つという名目で、新疆ウイグル自治区への弾圧を強化した。それは、ビッグデータとAIを組み合わせたシステムで統制と洗脳を行う大規模な社会実験だった。
アメリカの調査報道ジャーナリストである著者は、17年に取材を開始、3年かけて多くのウイグル人難民にインタビューした。技術労働者、学者、作家、学生、政府関係者、活動家らが、今そこにある最悪の現実について語った。
その中のひとり、カシュガル出身の女性メイセムは、外交官志望でトルコに留学していた。カシュガルに一時帰省したとき、祖国の変わりように驚愕する。いつもの散歩をしなかったことを不審に思った隣人に通報され、取り調べを受けた。実家の居間に監視カメラが設置され、DNAサンプルを採取され、職業教育訓練センターと称する収容所に入れられてしまう。メイセムがトルコで過激化した可能性があるとAIが予測したからだ。
警察国家を完璧なものにするために、中国政府は自国のハイテク企業を後押しした。金儲け優先の企業幹部は、自分たちの技術がどのように利用されるかを二の次にして、政府と一緒になって怪物のような社会統制システムをつくり上げた。
「共産党はいずれ、海外でも国内と同じように振る舞うようになる」と、中国問題の専門家たちは最悪のシナリオを口にする。私たちは恐ろしい時代を生きている。
(新潮社 2420円)