強権政治に立ち向かう
「台湾がめざす民主主義」石田耕一郎著
独裁体制の強権政治に世界はどう立ち向かうのか。日本にも無縁でない各国事情を深掘りする。
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米中間の緊張が高まるにつれて重要度が一気に増大したのが台湾。昨年の東京オリンピックでは台湾選手団の入場の場面で、NHKアナウンサーが「台湾です」と紹介すると現地では歓呼の声が上がったという。国際会議など公式の外交の場で「台湾」の呼称を使うと中国から猛烈な抗議が寄せられる。五輪出場の際の正式名称も「中華台北」なのだ。そのため台湾の知識層は自嘲をこめて自国を「アジアの孤児」と称してきたのだそうだ。それがNHKの放送で「台湾」と紹介されたのだから時流の変化は明らかなのだ。
そんなエピソードから始まる本書は、朝日新聞の台北支局長による現代台湾のドキュメント。軍事的手段ばかりでなくフェイクニュースやサイバー攻撃、経済的圧力などを組み合わせた「ハイブリッド戦争」を仕掛けてくる中国に対して台湾がどう対処しているか。日本でも知名度の高いデジタル担当相オードリー・タン氏がどんな道を歩んできたのか。蔡英文政権がめざす「ガラス張りの行政」とはどのようなものか。そして「国安法」(国家安全維持法)による徹底した弾圧で押しつぶされている香港情勢をかたわらに台湾がどう抗しているのか。
いずれも重要な問題をわかりやすく伝えてくれる。
(大月書店 1980円)
「ミャンマー『民主化』を問い直す」山口健介著
ミャンマーといえばかつて民主化のシンボルとして世界的に知られたアウン・サン・スー・チーがいる。ハリウッドが生涯を映画化したほどの人気だったが、3年前にオランダで開かれた国際司法裁判所の口頭弁論で、少数民族ロヒンギャを弾圧・虐殺したと非難される国軍を擁護したというので彼女の評価は無残に落ちた。
英オックスフォード市や仏パリ市の名誉市民号があいついで取り消されるなど、欧米マスコミは一斉に彼女を叩いたのだ。
本書はアセアン地域を専門とする若手世代の著者が「軍」対「民」の単純な対立構図に終始しがちなミャンマー情勢を分析する。温和な仏教国のイメージが強いミャンマーで、なぜロヒンギャがあれほど弾圧されるのか。イスラーム対仏教という違いだけではすまない政治力学を、「ポピュリスト化する」スー・チーという意外な角度から鋭く分析している。
(NHK出版 1650円)
「新疆ウイグル自治区」熊倉潤著
新疆ウイグル自治区。かつて毛沢東政権下で自治区が成立したとき、中国共産党は少数民族の「解放」を高らかにうたい上げた。しかし、習近平政権の強権のもとで自治はないがしろにされ、多くのウイグル人が「教育施設」に強制収容されている。本書は旧ソ連や中国など共産主義国家を専門とする法政大教授による歴史と現状の分析だ。
1970年代まで、自治区には毛沢東にも直接意見を言える新疆出身のウイグル人幹部がいたという。ところが近年は、こうした現地民族の幹部の地位が低下し、逆に内地から来た漢人幹部が強権政治化している。中国が推し進める「経済シルクロード」構想も、現地の大衆から見れば単に上から押し付けられる政策以上のものではないようだ。歴史的な歩みをふまえて複雑な情勢をわかりやすく解説している。
(中央公論新社 946円)