米中対決と日本
「日米同盟・最後のリスク」布施祐仁著
ロシアの威信低下と引き換えに、ますます高まる中国の存在感。米中対決に日本が巻き込まれる可能性は?
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1980年代末、INF(中距離核戦力)全廃条約を締結し、“冷戦後の恒久平和”に先鞭をつけた米国。しかし、中国が中距離ミサイルの大増強を成功させ、トランプ政権はロシアの条約違反を理由にINF条約を破棄してミサイル生産に着手。いま、在日米軍基地に配備する案が強まっている。
本書は、この問題を主軸に、いまや金科玉条と化す「日米同盟」が大きなリスクをはらむことに警鐘を鳴らす。日本はこれまで「抑止力」を決めゼリフに、国民に「同盟」のベネフィット(便益)を説明してきた。
しかし、沖縄選出の伊波洋一参院議員は、沖縄や奄美に配備される陸上自衛隊の地対艦ミサイル防衛網が、「台湾有事」の際に中国の標的となることで、米側にとっては主力部隊をグアムやサイパンに下げて態勢を整えるための戦略上のコマになっていると指摘する。陸自も日本政府も、ミサイルはあくまで本土防衛のためと言い張るが、米側の思惑とは大きなずれがあるのだ。
厚木基地の近くで育ったジャーナリストの著者は、情報公開された米側の文書を丹念に調べ、有事の際は「日本の全領域がアメリカの防衛作戦のための潜在的な基地と見なされなければならない」とする発想が占領から対日講和、今日の日米同盟まで続く日米安保の「背骨」と痛感したという。同盟のリスクは計り知れない。
(創元社 1650円)
「自衛隊最高幹部が語る台湾有事」岩田清文ほか著
東アジア情勢の緊迫化に加えてウクライナ危機の長期化と、自衛隊の元高官がマスコミに登場する機会が近ごろぐっと増えた。本書は元陸海幕僚長に空自補給本部長、そして国家安全保障局次長という安全保障の担当者が顔をそろえた。
第1部は「もし台湾に有事ありせば」のシミュレーションドキュメント。3年前の1月に実際に行われた机上演習の記録だ。2022年5月以降、ウクライナでは先行き不透明のまま停戦、韓国では尹錫悦政権の基盤が弱く、台湾では蔡英文総統の後継が決まらない。そんなリアリティーあふれる設定で、サイバー攻撃から日台双方の有力政治家愛人スキャンダル、そして中国の軍事行動へと展開してゆく……。
第2部では著者4人が座談会形式で忌憚なく意見交換。冒頭で元安保局次長から内閣法制局の口出しとアメリカ頼みの日本側の姿勢への苦言が飛び出し、議論はいきなり白熱化する。
日本の防衛をじかに担う人々の見方がよくわかる。
(新潮社 990円)
「2034 米中戦争」エリオット・アッカーマン、ジェイムズ・スタヴリディス著
米中対立が戦争に悪化する可能性といっても、シロウトにはどうしても現実味は薄い。本書はそこを埋めるにふさわしい。なんと米海軍でNATOの司令官まで務めた退役大将が、元海軍特殊部隊員のノンフィクション作家と一緒に仕上げたのが本書。小説仕立てで近未来に起こるかもしれない米中核戦争を描いて反響を呼んだのが本書なのだ。
第7艦隊の司令官や大統領補佐官、歴戦の手柄を誇る海兵隊パイロットらのアメリカ人に加え、中国の国防武官、中国潜水艦隊の司令官、さらにイランの革命防衛隊の将軍にインドの退役海軍中将、ロシアの海軍少佐まで登場して、攻略と思惑の入り乱れる国際軍事情勢の“あり得る未来”を描く。
その始まりは中国による米軍へのサイバー攻撃。これで通信・制御不能に陥った米海軍は艦隊ごと撃沈される衝撃的な屈辱に見舞われる。
予想を裏切る展開に、物語の最後まで目を離せない国際政治ミステリーだ。
(二見書房 1430円)