「ルポ 大学崩壊」田中圭太郎著/ちくま新書
いやはや、ここまで読んでいて不快な気持ちになり、「おなかいっぱい」という気持ちになる本は珍しい。いや、これは著者に対して言っているのではない。著者が長い時間をかけて取材した日本の大学の腐敗状況が絶望的なまでにクソであることに対する気持ちである。
とにかくページをめくるたびに「もうやめてくれー!」と言いたくなるほど、登場人物が私利私欲にまみれ、カネのことばかり考えているクソ野郎だらけなのだ。これが200ページ以上続き、本当に大学という世界が「教育」とはかけ離れた「金儲け」の場所であることがよく分かる。
日本大学の「ドン」と呼ばれ、所得税法違反罪で東京地裁で有罪判決を受けた田中英寿前理事長はワイドショーで散々取り上げられたが、その権力の大きさと、イエスマンの多さが話題となった。
なぜここまで大学という組織のトップやその周辺がエラソーにしているのかが分からなかったが、本書を読んでよく分かった。要するに、大学という存在は補助金もあり、国とズブズブの関係なのだ。巨額のカネを得たい法人と、恩を売りたい官僚が結託して、「悪徳教育ビジネス」を展開しているのである。
さらに言うと、「モリカケ」で知られる「加計学園問題」があそこまで大問題になったのも、利権が存在しているからである。一つ大学ができると、富を得られる人間がそれなりに誕生する構造になっていることを本書は明かす。
文科省の役人が天下りをすることができ、教育の名のもと、好き放題できるのが大学なのである。少子高齢化の中、大学の数は増え続けたが、「教育」の錦の御旗を掲げれば好き放題やれるのだろう。そこに強欲な経営者が目を付けたのだ。
本書は実名でさまざまな強欲経営者が登場する。見事なまでの悪代官っぷりが描かれていて、本当に気分が悪くなる。さすがに私立だけだろうよ(笑)と思うも、国立に関してもこんな記述もある。
〈国立大学は天領で、私立大学は藩だと例える方がいます。国立大学の学長や総長は天領に来るお代官様のようなものです。そして監事は、幕府が派遣したお代官様のお目付役と言えます。国が間接支配を通して、自由の気風を持つ学生の存在や大学の自治をなくしていきたいと考えているのでしょう〉
この本の痛快なところは、実名を挙げてクソ野郎・クソ大学を続々と登場させることである。特に下関市立大学と山梨学院大学は特筆すべきだ。もう、大学行かないでいいよ、と思わせる。
★★★(選者・中川淳一郎)