『「新しい資本主義」の真実 日米における新自由主義経済政策の歴史と転換』萩原伸次郎著/かもがわ出版
『「新しい資本主義」の真実 日米における新自由主義経済政策の歴史と転換』萩原伸次郎著
いまや世界中を席巻する新自由主義とは何か。本書は、日米関係を基軸に、その正体を解き明かすものだ。
本書で、私が驚いたことが2つある。ひとつは、新自由主義の元祖がニクソン大統領だということだ。著者が考える新自由主義の定義を大胆に要約すると、「資本に儲けさせるための仕組み」だ。世界恐慌の教訓を受けて、戦後の西側諸国は、ケインズ主義の経済政策を採った。財政出動で景気後退を防ぎ、累進課税で所得を再分配することで国民生活の安定と平等を図ったのだ。ニクソンは、金兌換停止によって、国際資本移動の規制を弱め、グローバル資本が世界中を動き回って増殖し続ける国際システムに世界を転換した。
もちろん弱肉強食の経済構造への改革を行ったのは、レーガン大統領だ。それ以降、アメリカは、貿易摩擦の解消だけでなく、新自由主義そのものを日本に押し付けてきた。特にクリントン政権の時代には、スーパー301条をちらつかせて、日本の経済構造を改革するよう要求するだけでなく、年次改革要望書によって、日本の構造改革を毎年要求するようになった。橋本龍太郎政権以降の日本は、それを次々に受け入れていった。
もうひとつ、私が驚いたことは、岸田総理を新自由主義者と断じたことだ。岸田総理は当初、金融所得課税を財源に国民への分配を優先し、賃金と経済成長の好循環を達成するとしていた。だから私は、岸田総理はケインジアンなのかと思っていた。だが、実際に打ち出された政策は、原発再稼働、防衛費や少子化対策に伴う増税や社会保険料の負担増など、新自由主義そのものだった。
もちろん、本書は、ニクソン大統領から岸田総理に至るまでの間に、日米政権の政策変化の歴史分析がぎっしり詰まっている。そのなかには、「自民党をぶっ壊す」と言いながら、国民生活をぶっ壊した小泉純一郎政権とか、「国民の生活が第一」と言いながら、庶民いじめの政策に変貌した民主党政権とか、新自由主義者たちへの痛烈な、そして痛快な批判があふれている。この半世紀の間にアメリカと日本で何が起きたのかを理解するために、本書は重要な枠組みを与えてくれる良書だ。 ★★半(選者・森永卓郎)