「百冊で耕す 〈自由に、なる〉ための読書術」近藤康太郎著/CCCメディアハウス
近藤康太郎氏(朝日新聞編集委員・天草支局長)による優れた読書指南書だ。多読、乱読よりも優れた本を100冊、ていねいに読むことで教養が身につくという考えに評者も賛成する。
読書は基本的に1人で行う作業であるが、場合によっては多人数による読書会が読解力の向上に資すると近藤氏は考える。
<本は一人で読むものだ。/それはそうなのだが、大勢で一冊の本を読んでも、楽しいことは、ある。/自分の読みを語る。どこがおもしろかったか。自分はどの文章にしびれたか。どの場面に打たれたのか。よく知られた名場面もいいが、なるべくなら、いままで指摘されなかったような〈新しい読み〉を語る。チャレンジする。/未読の人もいるのだから、まずはあらすじを、ごく短く、必要最小限に語る。あとは、自分の〈読み〉を披露する。気に入った場面を、なぜそこに魅入られたのか、理由を添えて語る。/読んだことがない人に、「おもしろいから読んでみなよ」と誘い込むような語り。すでに読んだ人には「そういう解釈があったか」とうならせる>
評者は、植木朝子同志社大学学長が主宰する文系・理系学部を横断する「新島塾」で、オンラインによる読書会を行っている。大学生たちと本について議論する過程で常に新しい発見がある。学生が「面白いです」と言う本を読むことで評者の知的世界も広がる。
近藤氏は「物語性(ナラティブ)」の重要性についてこう説く。
<ナラティブは、いいものだ。言葉にすると、自分がなにを考えていたか、自分はどういうことに感動するのか、初めて分かる。自分の輪郭が見えてくる。/あるいは、言業にしようと苦労していると、自分がいかになにも考えていなかったかが分かる。「言葉にできない」というのは、嘘だ。怠惰だ。言葉にできないのではない。考えていないのだ>
ウクライナ戦争をめぐる有識者の発言を観察していると「言葉にできない」ようなロシア軍の蛮行とかプーチン大統領が戦争を始めた原因が「わからない」などと言う人がいる。知的怠慢だ。どんな事柄でも言葉にする努力を怠ってはならない。
(2023年3月28日脱稿)
★★★(選者・佐藤優)