「キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを」泉谷しげる著/幻冬舎
「キャラは自分で作る どんな時代になっても生きるチカラを」泉谷しげる著
いまから50年前、私が中学生の時に日本を空前のフォークブームが襲った。男子生徒はみながギターを弾き、歌った。ところがいま、そのときのフォークの旗手たちに元気がない。70代を迎えて、活動が低迷したり、引退する人も増えている。そのなかで、一人気を吐いているのが、著者の泉谷しげる氏だ。
ミュージシャンとしてだけでなく、俳優として、そしてバラエティー番組でも活躍している。その理由は、著者の努力だけでなく、著者がスタッフに愛されているからだ。そのコツを、著者は「キャラを作る」ことだと言う。著者は、最初からオラオラキャラで売ってきた。しかし、そのキャラとは裏腹に、著者はとても繊細で、優しくて、誠実な人なのだ。そのことに私は、数年前に気づいていた。
私は、「有名人ダジャレグッズ・コレクション」をしていて、著者のところにチーズを持って行ってサインをねだった。「何だこれは」と言う著者に「ちーずみやしげる」ですと答えた私に、「だじゃれ面白くねえぞ」と言いながら、快くサインしてくれた。
口は悪いが心は優しい人が、昔はたくさんいたと著者は言う。ところが、いまは表面上トラブルが起きないようにうまく付き合うが、ネットで匿名になると、相手をつぶすまで徹底的に攻撃すると、著者は社会批判までやってのける。その言説は痛快だ。
また本書で著者は、吉田拓郎やさだまさしの「悪口」を書いたり、美空ひばりや太地喜和子のプライベートを暴露したりしている。知らないことばかりなので、それはそれで、とても興味深いのだが、おそらくそのことで著者がクレームを受けることはないだろうと思う。発言の背後に著者の愛情と尊敬があふれているからだ。
本書は、著者の生きざまをつづった本だが、私は、「美しく老いていく」ための教科書でもあると思う。最後まで輝く人生を送るためには、活躍できる舞台が必要だ。その舞台を整えるためには、周囲を動かす気遣いが必要なのだ。
普段、経済書しか読まない私が本書を紹介しようと思ったのも、私が知らず知らずに、この本と著者の生き方に心を動かされてしまったからだ。
★★★(選者・森永卓郎)