「教場」長岡弘樹著

公開日: 更新日:

「教場」長岡弘樹著

 警察学校とは、警察職員を育成するための教育機関、職業訓練学校。全寮制で、生徒は数カ月にわたる共同生活を送る。また「教場」と呼ばれるクラスで教官・助教から、警察職員として必要な教養・訓練を受ける。この「教場」を舞台にしたのが本書で、従来の警察小説にはないユニークな設定は大きな反響を呼び、テレビドラマにもなった。

【あらすじ】某県警察学校初任科第98期短期課程。4月の入校から50日、同期の学生数は4人減っていた。みな成績不良のため依願退職を迫られたのだ。次に脱落する本命と目されているのが職務質問の実習で失態を演じた宮坂と平田だった。

 しかし、肺炎で入院した植松に代わって教官になった風間公親は、宮坂が平田に合わせてわざと下手なふりをしたのを見抜く。教官に提出する日誌も含めてウソをつくことはご法度。風間はそのウソを見逃す代わりに、宮坂に生徒たちの動向を報告するように命じる。

 仲間に白眼視される中、宮坂は風間に日々の出来事を報告していたが、ある日、便器用の洗剤がなくなった。それを聞いた風間は、急にクラスの生徒全員にグラウンドでのランニング25周を命じる……。(「職質」)

 そのほか、女性の中で最も小柄な楠本しのぶと最も大柄な岸川沙織との確執(「牢問」)、仲間の無断外出のアリバイにウソをついて恨まれる白バイ警官志望の鳥羽(「蟻穴」)、スズメバチを異様に恐れるパトカー乗務員志望の由良(「異物」)など全6編を収録。

【読みどころ】いずれも、細部の鋭い観察によってすべてを見抜く風間の掌の上で踊らされる生徒たちの狼狽ぶりが描かれている。全寮制という一種の密室が引き起こす、さまざまな仕掛けを巧妙に使った独創的な警察小説。 〈石〉

(小学館 693円)

【連載】文庫で読む 警察小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  2. 2

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  3. 3

    【独自】亀山千広BSフジ社長“台風夜のお色気ホムパ疑惑” 「帰宅指示」を出しながら自分はハイヤーで…

  4. 4

    ドジャース佐々木朗希 160キロ封印で苦肉の「ごまかし投球」…球速と制球は両立できず

  5. 5

    ヤクルト村上宗隆 復帰初戦で故障再発は“人災”か…「あれ」が誘発させた可能性

  1. 6

    明暗分けたメジャーの最新評価…ヤクルト村上宗隆「暴落」、巨人岡本和真は「うなぎ上り」

  2. 7

    中森明菜「奇跡」とも称された復活ステージまでの心技体 「初心を忘れるな」恩師の教え今も…

  3. 8

    フジの朝ワイド「サン!シャイン」8時14分開始の奇策も…テレ朝「モーニングショー」に一蹴され大惨敗

  4. 9

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  5. 10

    セレブママの心をくすぐる幼稚舎の“おしゃれパワー” 早実初等部とアクセスや環境は大差ナシ