「バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課」松嶋智左著
「バタフライ・エフェクト T県警警務部事件課」松嶋智左著
警察組織において警務部は、落とし物などの受け付け業務、110番などの緊急通報以外で警察にかけられた電話への対応、警察の活動をPRするための広報業務など総務的な仕事のほか、人事、監察業務も含まれる。人事・監察に関わることから現役警官からは一目置かれている部署でもある。
【あらすじ】本書の舞台は、T県警警務部事件課。近年の犯罪の広域化に対処すべく、部課を超え、制限や慣習に縛られることなく捜査、活動できるよう新設された部署だ。
新規に配属された3人の警部補(係長)は年長の明堂薫をはじめ、いずれも女性。その下に男性巡査長1人と2人の男女の巡査という陣容だ。女性の警部補ばかりというのは、弱者被害の事案を積極的に扱うという姿勢からだという。
最初に飛び込んできたのは、交番勤務の若手警官が自殺したという報だ。警務部長は、もし自殺の原因がパワハラやいじめだった場合、監察課が公にしないように取り計らう可能性があると危惧し、明堂らに調査を命じたのだ。
一方、連続窃盗犯として収監されていた女性2人組のアリバイを立証する証人が現れ、誤認逮捕の恐れが浮上。
もし事実なら、どちらも仲間の失態を明らかにすることになる。周囲の協力を得られないまま、明堂ら6人は地道な捜査を続けていくが、その先に待っていたのは……。
【読みどころ】56歳のベテランで、離婚して息子と2人暮らしの明堂薫。所轄の警務係長を7年務めた40代の阿波野千夜。生活安全課から転属してきた30歳の塙香南子。3人の警部補それぞれの家庭事情や警察官としての矜恃も描かれるが、そこから浮かび上がるのは男組織の中で働く女性警官たちの葛藤だ。
元白バイ隊員の著者ならではのリアリティー。 〈石〉
(小学館 770円)