「日暮れのあと」小池真理子著
「日暮れのあと」小池真理子著
昼過ぎに玄関ブザーがけたたましく鳴った。8年前に母が古くさいと言って最新型のインターホンを取り付けたのだが、なぜか電機屋はブザーを取り外していかなかったのだ。
その頃入院中だった父は、1週間後、容体が急変して亡くなった。通夜を終えて帰宅すると、10時過ぎにブザーが鳴り響いた。「おとうさんよ、きっと」と母が言った。「私」はインターホンのモニターを見たが、何も見えなかった。
あれから8年もたっているからブザーの機能は失われているはずなのにと不審に思いながら、インターホンのモニターに何も映っていないのを確認。居間に戻ろうとしたら、「突然、おじゃまして申し訳ありません」と女の声がした。かつて妹の夏美がつきあっていた杉浦の妻だった。夏美と杉浦は昨年、伊豆の海で溺死したのだった。(「喪中の客」)
もつれた愛を描いた7編の短編小説。
(文藝春秋 1815円)