「それでも、警官は微笑う」日明恩著

公開日: 更新日:

「それでも、警官は微笑う」日明恩著

“麻薬Gメン”あるいは“マトリ”と呼ばれる麻薬取締官は、厚生労働省の地方支分部局に設置されている麻薬取締部に所属し、刑事訴訟法に基づく特別司法警察職員としての権限を持つ。麻薬取締官の6~7割は薬学部出身者で、科学的な知識や考察が求められるのが特徴だ。本書はいわゆる「バディーもの」だが、そこへマトリも加わり、独特の雰囲気を醸している。

【あらすじ】武本正純巡査部長は池袋署の刑事課強行犯係の刑事。年下の上司・潮崎哲夫警部補は、やたらおしゃべりで勤続6年と経験は浅いが、親が門弟2万人という茶道の家元で警察上層部のお偉方も一目置いている。

 武本らは近年出回っている密造拳銃を持っている男に近づこうとしたところ、何者かが「逃げろ、警察だ!」と叫んだ。男はコンビニに逃げ込んだが、武本がなんとか確保。叫んだ男は宮田というマトリだった。犯人は麻薬常習者でその線で追っていたので、武本らに捜査を邪魔されると思ったのだ。

 宮田は5年前に起きた恋人の父親の自殺の真相を追っていたが、そのとき使われたのも武本らが追っていた密造拳銃だということが分かる。刑事とマトリとは立場が違うが、ともにこの密造拳銃の出どころを探っていく。調べていくうち、背後にはある大きな陰謀が控えていることが徐々に明らかになる--。

【読みどころ】武骨で事件解決のためなら規則などくそ食らえという武本、やたら軽口ばかり叩いて周囲の眉をひそめさせる厄介者だがどこか憎めない潮崎、恋人の窮地を救うために将来ある学者の道を諦め、マトリに転身した宮田。3人のキャラクターが入念に書き込まれ、奥行きのある物語になっている。既刊4冊の武本&潮崎シリーズの第1弾。 〈石〉

(双葉社 859円)

【連載】文庫で読む 警察小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…