仕掛けられた罠にはまってみるべし 「本屋を知る本」特集
「美しい本屋さんの間取り」エクスナレッジ編
一歩足を踏み入れたとたんに日常を忘れてしまう不思議な空間が本屋だ。店主は催眠術師のように客を誘導するアプローチを設定し、棚にユニークな世界を構築して客を引きずり込もうとする。だが、自らその罠(わな)にはまってみるのも悪くない。
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「美しい本屋さんの間取り」エクスナレッジ編
本を売る空間には演出も重要だ。ひと目で本屋だと分かるように店先に本棚を置いたり、目立つ置き看板や軒看板を設置して、アピールする。店内では、中央に平台を置いてお薦め本や新刊を並べると客の目を引きやすい。椅子を置いてみたりすると雰囲気も出るし、その上に本を置くという演出にも使える。スペースにゆとりがある本屋では、カフェやギャラリーを併設しているところも少なくない。
本棚を小さく仕切って、地方の小さな本屋や出版社に棚貸しし、ユニークな本を並べる棚貸し本屋もある。
美術書など専門書が多い本屋の入り口近くの外からガラス越しに見える棚に絵本を並べたり、画集、写真集、グラフィック関係、ファッション関係など、客層によって動線を分けるなどの工夫も必要である。
全国40店舗をリサーチして、美しい間取りの本屋を紹介するほか、開店資金調達の方法などもアドバイス。 (エクスナレッジ 1980円)
「本屋、地元に生きる」栗澤順一著
「本屋、地元に生きる」栗澤順一著
盛岡は2017年の本の購入金額が全国1位という「読書のまち」だ。「さわや書店」はその盛岡で数店を経営している老舗書店チェーンである。地元のテレビやラジオに出演したり、タウン誌で書評を担当したりしている名物書店員が集まっている。新潮文庫を全部そろえるといったことにこだわらず、ちくま文庫や講談社学術文庫を増やすなど工夫して売り上げを2割上げた。
また、「天国の本屋」(かまくら春秋社)という本に注目して、POPを作り平台で販売するとベストセラーとなり、映画化もされた。16年には「文庫X」という仕掛け販売の企画が話題に。清水潔著のノンフィクション「殺人犯はそこにいる」(新潮社)にオリジナルの手書きカバーを掛け、書名を分からなくして販売したところ、この企画は大ヒット。全国の650以上の書店で30万部以上売れるという成果を上げたのだ。アイデアで本を売る書店のドキュメント。 (KADOKAWA 1650円)
「本のある空間採集」政木哲也著
「本のある空間採集」政木哲也著
熱海のかつて映画館ロマンス座があった所に2021年に開店したのが「ひみつの本屋」。チケットブースだった小さなスペースをリノベーションして書店にした。4畳半くらいの部屋の3面に書架を設置し、中央には天板が革張りになっている年代物の書斎机を置いている。机の上にはランプや地球儀がのっていて、店というより、個人の書斎のような雰囲気を醸し出している。
新潟の「今時書店」は現役の高校生がデザインした無人の書店。書架ごとに複数のブックオーナーがいて、自分が選んだ本を並べる。1年ごとに入れ替わるので、珍しい本に出合える楽しみがある。
浜松市郊外のマンションの一室にあるのが「フェイヴァリットブックスL」。住居の雰囲気をそのまま残した内装で、和室の壁際にカラーボックス風の低めの本棚が置かれ、真ん中に敷かれたラグの上にはちゃぶ台が鎮座している。
立地や設計がユニークな書店や私設図書館、ブックカフェを43店、俯瞰図や見取り図で紹介。 (学芸出版社 2750円)
「夢眠書店の絵本棚」夢眠ねむ著
「夢眠書店の絵本棚」夢眠ねむ著
東京・下北沢にある絵本専門店「夢眠書店」の店主である著者は「どこでも買える本しか置かない。こだわらない。おすすめしない」がモットーだ。
子どもは「おばけ」が大好きだが、そのおばけの晩餐会の騒動を描いたジャック・デュケノワ著「おばけパーティ」(大澤晶訳 ほるぷ出版 1540円)などは、子どもが大喜びしそうだ。
おばけだから壁なんてするりと通り抜けられるのだが、おばけが手に持った飲み物は壁を通り抜けられない。となると……。
絵本といっても大人も楽しめるマニアックな作品も並んでいる。例えば店橋花里作・絵「仏像えほん ぼくとぞうの有頂天たび」(YAMAVICO HAUS 2200円)には、如来の図解まである。頭の螺髪はみんな右巻きだとか、手の指の間には人びとを救うために水かきのようなものがあるという“へえ~”の情報やら、「如来の毛穴はいい匂いがする」など、なにやら官能的な情報が満載だ。 (ソウ・スウィート・パブリッシング 2530円)