ミステリー小説「あいつらの末路」真梨幸子氏に連載直前インタビュー
これまで女性の業や執念を潜ませたホラータッチのミステリーを数多く発表し、イヤミスの女王と称される真梨幸子氏による連載小説「あいつらの末路」が来月2日からスタートする。主人公は老後の不安が押し寄せる50代の2人の女性。ひとつの選択により思わぬ方向に転がっていく彼女たちの行く末は一体……。
知人に訴えているのだろうか、それとも何かの専門家に相談しているのか。52歳の女性が切々と自分が置かれている窮状と不安を訴えている。熟年結婚で高収入の夫を得たが、夫が突如会社を辞めてしまった。退職金も貯蓄額も分からないが、聞くことは出来ないと、涙を浮かべて言うのだ。
他人の不幸話につい聞き耳を立てているようで、好奇心がかき立てられる。
「50代を主人公にした物語を考えていたんです。人生の折り返しを過ぎた50代は、病気、介護、終活や老後などがぐっと身近になるんですね。その一方でバブルの経験がある最後の世代であり、いま流行りのシニア婚活の当事者でもある。そんな50代のリアルな不安を切り口にして、私の大好きな事故物件と未解決事件とを絡めて描いてみようと思ったんです」
物語の主人公は秋沢景子と、石塚朝美の2人だ。景子はフリーライターで、朝美はパッとしない小説家。共通点は50代であること、そしてずっと“おひとりさま”だったことだ。第1章<パワーカップルの末路>では、雑誌の「家計簿拝見」という取材で出会った景子と朝美とが交互の視点で物語を紡いでいく。
コンシェルジュのいる湾岸タワマン暮らし。婚活サイトで出会い、熟年結婚した夫は無口だが学歴、職業、収入と文句なし。しかし、そんな一見セレブな朝美の私生活は、夫との関係も含め実に不安定なものだった。
「タワマンって住んでみると不便なことも多いんですよ。たとえば上層階に行けば行くほど壁が薄くなっていて、生活音が気になるんです。台風ではすごく揺れるし、夏は灼熱。朝美のイライラは落ち着いて生活できなかったという、私の実体験でもあるんですね。住んでいるうちに違和感と矛盾を感じたので引っ越したんですが、住まいが人に与える影響って計り知れないな、と。その関心から殺人鬼の家というのを調べたことがあるんですが、なんと彼らは揃って三角形の間取りに住んでいた。事件の被害者が住んでいた物件に移り住んだら超常現象を経験した、という話もあります。今作は安全な場所であるはずの家が大きなフックになっています」
ある日、朝美は夫から会社を辞めたこと、タワマンを売って郊外の一軒家に住みたいと仰天告白を受ける。アタマに血が上った朝美だが、夫に見せられた写真を見て心が動く。まるでアガサ・クリスティが生み出した探偵ミス・マープルが住んでいそう……。場所は八王子の先のY県。天界のニュータウンと称される「ハワースの丘」だった。
「実在するニュータウンにインスパイアされています。駅から直通のエスカレーターで上ると広大で美しい景観の街が出現して、下界の駅周辺の何もなさとの落差で、ミステリアスな感じを覚えるほどなんです。バブル期に開発された高級住宅地なんですが、物理的には“孤島”でもある。ここで殺人事件でも起きたらいろんな意味で恐怖ですよね(笑)」
果たして「ハワースの丘」のシャレた一軒家に移住したのは、朝美ではなく景子のほうだった。しかしその家は、いわくつきで……。
女性同士のマウントの取り合い合戦から一転、不穏な世界へといざなわれる。老後を見据えた結婚、終の住処、限られた住人しかいない“孤島”。逃げようのない閉塞感が、じわじわと読み手を追い込んでいくこと必至だ。
「タイトルやこれから続く章にも<~の末路>とつけています。末路というのは誰かの失敗のことで、地位の高い人の失敗ほどエンターテインメント性は高いんですね(笑)。その差が大きいほど面白い、という人間の貧しいところも出していきたいと思っています。1章からちりばめている伏線、そしてトリック、それ以外にも女同士のバトルなどさまざまな人間関係を高みの見物で楽しんでください」
▽真梨幸子(まり・ゆきこ) 1964年、宮崎県生まれ。多摩芸術学園映画科卒。2005年「孤虫症」でメフィスト賞を受賞しデビュー。11年に文庫化された「殺人鬼フジコの衝動」がベストセラーに。著書に「女ともだち」「まりも日記」「極限団地」「教祖の作りかた」「ウバステ」ほか多数。