「カタツムリから見た世界」トム・ヴァン・ドゥーレン著 西尾義人訳
「カタツムリから見た世界」トム・ヴァン・ドゥーレン著 西尾義人訳
民俗学者の柳田国男は「蝸牛考」で、カタツムリの呼び名が京都を中心としてデデムシ→マイマイ→カタツムリ→ツブリ→ナメクジというように同心円状に分布することを指摘し、そこから方言周圏論を提唱した。
日本各地に生息していたカタツムリだが、近畿地方では現在、200種の半数以上が絶滅の恐れがあるという。これは世界的な傾向で、ハワイ諸島はカタツムリの種が豊富なことで知られていたが、現在は深刻な絶滅の瀬戸際に立たされているという。
著者は、絶滅の危機に瀕している種と人間の絡まり合いの中で生じる、哲学的、倫理的、文化的、政治的問題に焦点を当てて研究している環境哲学者。同じ絶滅危惧種といっても、ゾウ、トラ、クジラといった哺乳類に比べ、カタツムリやナメクジなどの腹足類については関心が著しく低い。本書は、ハワイに生息するカタツムリが陥っている危機的な状況に注目し、絶滅に関わる複雑な関係を踏まえ、なぜ、どのように絶滅が生じるのかを考察している。
ハワイ諸島では現在までに約750種のカタツムリが確認されているが、その数は北米大陸全体の3分の2。99%以上が固有種というカタツムリの宝庫だ。しかし450種は既に絶滅し、残りの大多数も個体群が僅少で、安定して存在しているのは11種に過ぎないという惨状だ。
しかも絶滅の大半はこの100年ほどの間に起きている。そこにはグローバル化(外からの天敵の流入など)、植民地化(サトウキビなどの単一栽培ほか)、軍事化(米軍基地建設による環境破壊)、地球温暖化といった問題が複雑に絡まり合っている。まさに、カタツムリの視点から見ることで「人新世」といわれる現今の地球環境の歪みが浮かび上がってくる。
おまけにカタツムリという謎に満ちた生き物についても詳しく書かれていて、目から鱗が落ちるのは必定。 〈狸〉
(青土社 3300円)