「本業2024」水道橋博士著/青志社(選者:中川淳一郎)
タレント書評本なのに気が付くと博士ワールドにドップリ
「本業2024」水道橋博士著/青志社
浅草キッド・水道橋博士氏による83冊の「タレント本」の書評集である。664ページの大著であり、帯の「よくこれだけのモンを書いたなー! この本、重いよ! バカヤロー!!」と師匠のビートたけし氏が言うだけのことあり、とにかく重厚な本である。
博士氏といえば、私にとってのバイブルである「お笑い男の星座2」の著者でもあり、本書でも筆致は冴えに冴えわたっている。矢沢永吉、山城新伍、えなりかずきら83人の著書を紹介するのだが、読み進めるうちにおかしなことに気付く。
本来、書評とはその対象となった本を読みたくなるのだが、そんなことはどうでもよく、博士氏の軽妙かつ重箱の隅をつつくかのような著者へのツッコミに引き寄せられて、一体何の本の書評をしているのかが分からなくなってくるのだ。
もちろん、そのタレントの名前は分かるのだが、書名を完全に忘れさせる博士ワールドに引きずり込まれるのである。こうなると「水道橋博士による著名人ホメ殺しエッセー」のようになってくる。
「お笑い男の星座2」でも見られたように、博士氏は執筆対象のトンデモ部分を取り出し、面白おかしく描写する名人芸を本書でも発揮している。そして、筆が乗っているであろう記述も多々見られる。みうらじゅん氏が開発した「D・T」、すなわち「童貞」に関する部分を見よ。
〈D・Tは、その濃密な童貞期間に映画、雑誌、本、音楽、ラジオ(AM)などに貪るように入り込み、その妄想力、想像力を蓄えてゆき、長き童貞ならぬ道程を歩む〉
とにかく文章が面白いのだが、キチンとタレント本の中のツッコミどころも的確に引用する。長嶋一茂氏の「三流」ではスランプに陥った時の一茂氏の気持ちの部分を紹介する。
〈「俺のところにベーブ・ルースの精霊が降りてきて、ホームランがバカスカ打てるようになるとか、そしたらボールが止まって見えるようになるんじゃないかとか、そんなことを夢想するようになったのだ」
と20歳を超えた大人とは思えぬ妄想に浸り、
「暇さえあれば心の中でUFOに俺のところに飛んできてくれって、必死によびかけるのだ。それもUFOに遭遇して超能力がついたとか言う記事を何かでよんだからだ。UFOに会って超能力を身につければホームランが打てるようになるかもしれない」
とヤクルトならぬオカルトチックな願望に駆られたことを赤裸々に告白する〉
本書に漂う雰囲気は分かっただろうか? また、本書では2024年現在のタレント本著者の近況にも触れられており、「タレントツッコミエッセー」として見事な完成ぶりである。 ★★★