「貧困と脳」鈴木大介著
「貧困と脳」鈴木大介著
著者は長年、貧困に苦しむ若者の現実を取材し、世に問うてきた。一方で、約束を破ったり遅刻を重ねたりする彼らのだらしなさに疑問も感じていた。だが、あえて著作ではそのことに触れてこなかった。世の自己責任論に燃料を注ぐことになるからだ。
しかし、9年前に脳梗塞を患い、脳の認知機能障害が残った著者は、考えが一変した。約束や時間が守れず、働けなくなり、その不自由感は、かつて彼らから聞いた訴えと一致していたからだ。彼らは「やろうとしない」「やる気がない」「ちゃんとしていない」のではなく、「必死に頑張ってもできない」「やる気があってもできない」のだと分かったという。
脳と貧困の因果関係を解き明かし、当事者を自責・自罰から解放するとともに、世の自己責任論に終止符を打つ一冊。
(幻冬舎 1056円)