楠田枝里子さんがハマる消しゴム収集 「魅力は“滅びの美学”」
日本製は世界でもトップレベル
実際に使ってみて、さらに驚嘆します。私たちは、泣き叫ぶ赤ん坊をむんずとつかまえてゴシゴシと紙の上に押しつけなければなりません。赤ん坊は顔をゆがませ、奇妙な格好で減りながら文字を削り取っていき、そして最後には、洋服だけが残された人形となってしまう……。
こんな恐ろしいシュールな光景はありません。さすがにゴヤやダリ、ピカソを生んだ国ではありませんか。
もちろん日本の消しゴムも世界のトップレベル。ユニークな発想の傑作面白消しゴムが続々登場して、私たちを楽しませてくれています。小さな消しゴムに込められた作り手の熱い思いが伝わってきて、思わず顔がほころんでしまうんですよね。
もうひとつ、消しゴムを見ると“時代”がわかります。
景気と見事にシンクロしており、景気が良いと経済的な余裕に後押しされ、メーカーさんも工夫を凝らした面白消しゴムを次々に発表してくれるし、企業や各種団体がさまざまなノベルティーを作りますからバリエーションが増えます。低迷期は一般企業もメーカーも厳しいんでしょうね。あまり興味を引く新商品は出てきません。
さらに、業種や企業、商品の栄枯盛衰、歴史も表しています。消しゴムは時代を映す鏡でもあるんですよね。黒電話から最新の携帯電話へ移行する電話機の歴史をたどることもできるし、昔人気を誇ったものの今は作られなくなった玩具やインスタントラーメン、洗剤も懐かしい。
消しゴムというのは、実用に徹した事務用以外は、一つのパターンを長い期間作るわけではありません。あくまで消耗品ですから、次から次へと新しいデザインが生み出されます。ということは、たかだか50円ほどのものであっても、いったん入手し損ねると次がない。ご縁といいますか、出合うタイミングも大事なんです。