「雁の寺」はミステリー映画 虐待坊主はどこに消えたのか
その結果、すべてが終わったとき、旅装束の慈念を里子は追いかける。住職の死で気弱になり、少年から離れられなくなった女心が不可思議だ。
謎はもうひとつある。結末は白黒から一転してカラーになり、公開時の62年に移る。現場の寺に観光客が押し寄せ、小沢昭一扮する案内人が軽妙なしゃべりを披露。これは何を意味するのか。
お叱りを覚悟で勝手に深読みすると、小沢昭一は成長した慈念ではないか。そう思える情報もある。助監督だった湯浅憲明は、この場面で居眠りをしている売店の老女は川島監督の意向で若尾文子によく似た女優が選ばれたと明かしている。里子が寺に残ったのなら慈念がいても不自然ではない。偶然なのか、慈念と小沢昭一は同じところにホクロがある。陰気な慈念が30年を経て素っ頓狂な人間に生まれ変わったのなら、まことに面白い。人間が大変身することは誰もが同窓会で目撃しているはずだ。
ちなみに川島は本作の翌年、45歳で死去。種明かしをしないまま逝ってしまった。
(森田健司)