木久蔵「ほめて下さい。僕はほめられて育つタイプなんで」
「改名するに当たって僕も考えました。当人が『僕、有名になりたい』と言いますんで、だったら木久蔵を継いじゃえばいいと襲名を提案したんです。僕は違う芸名にするからって」
その一言が演芸界では初めての親子同時襲名に発展する。
「母親は反対しました。お父さんが広めた名前を、いくら息子だからってそんなに簡単に譲っちゃいけないって。でも、売り出すにはそれが一番と思いました」
歌舞伎界では親子同時の襲名披露はよくあることだが、落語界では初めてだ。父親がどのようにして新しい芸名をつけてダブル襲名に臨んだか。その方法もまた前代未聞であった。
1996年に入門。前座名は林家きくおである。父親の前座名が木久男だった。
木久扇としては、息子が落語家になったのはうれしいけれど、寄席の楽屋仕事などの前座修業が務まるか心配だったという。しかし、それは杞憂であった。木久蔵はこう語る。
「楽屋の仕事は苦じゃなかったですよ。多くの芸人さんが、息子ということで可愛がって下さいました。それは父がどの仲間にも優しくしていたからでしょう。学生時代は木久蔵の息子だからってチヤホヤされることはなかったので、とても居心地が良かったです」(つづく)