分断社会の行く末を警告…傑作「ジョーカー」を見逃すな
バットマンが出てこないバットマン映画――DCコミックスの代表的ヒーローの宿敵を主人公にした映画「ジョーカー」が、全世界的に大ヒットスタートを切った。北米では10月の封切り作品としては過去最高の興収を記録。R指定作品として若年層の観客を見切った残酷で生々しい作風が、これまでのコミックファンをもうならせている。映画批評家の前田有一氏はこう言う。
「DCは、アベンジャーズシリーズで知られるライバルのマーベル社と違い、『ダークナイト』(2008年)など大人向けのバットマン映画で成功してきた経験があります。『ジョーカー』はそれをさらに突き詰めた作りで、肝心のバットマンすら登場せず、悪役ジョーカーの誕生秘話だけを描いています。トランプ大統領が進める分断社会の行く末にある破滅を警告する社会風刺になっている点も、当時の対テロ戦争政策を批判した『ダークナイト』の印象に近い」
のちにジョーカーとなる青年アーサー(ホアキン・フェニックス)は、ピエロの扮装で大道芸人まがいの日雇い仕事をして、病気がちの母との暮らしを支えている。だが彼は、緊張すると笑いが止まらなくなる持病が原因で、普通の社会生活に適応できない。