<9>麻雀は打ち手によって格調が生まれる
阿佐田さんが「二索」を引いて聴牌したのは摸打9巡目だが、2巡回してリーチをかけた。その理由は5巡目にツモ切りしたドラ「白」が他家にポンされたことにあった。そうでなければ、黙聴で回して、「一萬」を見逃したと思う。ドラを鳴かせてはそうもいかず、安目「一萬」で栄和した。
画竜点睛を欠くとでも言うか、苦労しても最後のツメがうまくいかないのは、麻雀では普通のこと。手役を育てるプロセスに苦心しても、あがり牌が安目では「ツイてない!」とわめきたくなる。
しかし、麻雀の面白さは、こうした不条理にもあるのではないか。その点も、人生にそっくりである。
阿佐田哲也さんは、ツイてるツイてないという言葉は口にしなかった。手役志向の強い麻雀を打ち続け、結果にはこだわらなかった印象がある。
麻雀は打ち手によって格調が生まれるゲームだと、結びたい。
▽おことわり 当欄の筆者である板坂康弘さんが6月15日、神経内分泌がんのため、亡くなられました。享年85。この連載は生前書き残したものであり、しばらく遺稿の掲載を続けていきます。(日刊ゲンダイ 編集部)